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side E さよなら、共依存のお兄ちゃん
生まれた時からも、物心ついた時からも言い過ぎだ。でも、いつからか思い出せないくらいずっと一緒だった。
『ずっと』も『絶対』も、言葉だけなんて信じられない。だけど、なぜか、良基とは絶対にずっと一緒にいられると思っていた。
たまに2人が一緒にいるのを見かける。
良基が凪沙ちゃんの隣りで笑っている。私の隣りじゃないことが少しだけ悲しくて。
それ以上に、良基が幸せそうなのが嬉しくて。
二人の幸せが嬉しくて、それを理由に良基と自然に距離を置くというのが先のことを考えた賢い選択だ。
けれど、それはただ私が楽になるための都合の良い言い訳なのかもしれない。
良基がまだ私をひとりぼっちにしたことを悔やんでいるのを知っているから。たまたま2人っきりになったらまた前みたいな関係に戻ってしまうかもしれないから。
良基が最後に家に来て以降直接会うことはなかった。
良基とちゃんと会ったのは年明けの学校の帰り道だった。
お互い「久しぶり」と声をかけてから、世間話に花を咲かせた。
自分で思っていたよりもずっと普通に話せた。
「リア充め!滅べ!」
「いきなりひでえな。でも、的野さん、俺の夢は叶えてくれなさそうやわ」
「初恋の人と結婚までってやつ?」
「そそ」
「だってまだ十代やよ。結婚なんて気が早いわ」
「的野にも言われたんよ」
お互いの部活の話や定期試験の話もしたけれど、大方凪沙ちゃんの話だった。私がきくと、良基は照れながらも嬉しそうに初デートや年末のことを話してくれた。
分かれ道に差し掛かり、私は良基の方に手を伸ばした。
あと少しのところで届かないことを確認してからその手を下ろした。
良基はだんだん凪沙ちゃんに釣り合う人になっていく。学年で一、二を争う可愛い女の子の隣りにいるに相応しいセンスのいい服を着るようになって、人並みに流行や女の子が好きなものを気にするようになった。
「だんだん私の手の届かないところにいっちゃうな」
そう言った私に良基は眉を顰めた。
そんな顔してると小さい子は寄ってこないぞ。
「阿呆やな」と呟いて、良基は私の頭を撫でた。
「お前の方が背は低いし、手は短いんやから仕方ないやろ。お前はちゃんと俺の手の届く範囲にいるから心配すんな」
私の人生は良基がいた方が歪んでいたとしても鮮やかだ。
恋人をつくるのは良基が結婚してからでいいやなんて思ってしまったのは、良基の幸せをちゃんと見届けたいからじゃなくて、きっと良基が凪沙ちゃんと別れた時に戻って来てほしいからなんだ。
良基に幸せになってほしいなんて言いながら、結局これが本心なんだ。
私はきっと一生凪沙ちゃんに頭が上がらない。
凪沙ちゃんは私の汚いところを全部知っているのに、今まで通りに私に笑いかけてくれるから。
ついこの間、凪沙ちゃんと良基に会った。
見覚えのある傘だからすぐに分かった。
私がずっと見ていた傘。
相合い傘なんてアツいねって茶化したけど、凪沙ちゃんに利害が一致したからだってかわされた。
愛しさと哀しさの重なった相合い傘が、いつまでもあの二人を誰かの雨から守ってくれますよう
さようなら
私が頼りっきりにしていた共依存のお兄ちゃん
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