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side N 曇りの日
週の真ん中でただでさえ憂鬱な水曜日。さらに数学の授業が二時間もあるのだからさぼりたくもなる。
すんちゃんこと私のオアシス、私のオアシスことすんちゃんは紙パックジュースのストローを咥えながら首を傾げていた。
「どしたの、なぎちゃん」
憂鬱な水曜日といえど今は昼休み。たいていの生徒は仲の良いクラスメートと机を囲んで昼食をとっている。一人で弁当をつついている奴もいるがそれについてはおいておこう。
変な冗談を言うお調子者の男子やそれに苦笑いの男友達、白い目を向ける周りの女子達が目に入った。
私はすんちゃんと廊下側の後ろの席に座り、購買で買った惣菜パンをかじっていた。
天気がいいから窓側にすればよかったなと思いながら左手でアンドロイドをいじっていると『篠塚さんが急用で今週の土曜日のサッカー部の試合の取材に行けなくなってしまったので代わりにお願いしても良いか?ごめんな』
やめてくれ。
今週の土曜日は家でだらだらするという用事があるのだ。
私の怪訝な顔を見て、どうしたのかとすんちゃんが横から覗きこんできた。
すんちゃんは「なぎちゃん、たまには文化的な行動をしよう」と、鋭い一言を放った。
私は愚痴を言ってやろうと『クズ橋』とのトーク画面を開いた。
『…あんなとこ、一人で行きたくない』
『友達は?』
『部活とバイトと家の手伝い』
『俺、一緒に行ったろか?元々、絵琉と行くはずやったんやけど、あいつ用事入って行けんくなったから』
『知ってる。だって私絵琉ちゃんの代役だし。一匹釣れた笑』
『感謝されてる感が…』
その日の服装は前から決まっていた。楠橋の好みの文学少女みたいな格好。
サッカーの試合を見に行くだけのくせに。
小物と髪型に多少悩んだものの、どうせ清楚な子がいいんだろうと下手に飾るのはやめた。
髪をまとめ鞄に荷物を入れようとした時、何とか三日坊主にならずにすんでいる日記が目に入った。
ちらちら見ているうちにいつも通り遅刻しそうな時間になっていた。楠橋との待ち合わせは試合会場近くの市電乗り場だ。途中少し小走りになるかもしれない。
『ちょっと遅れるかも』
『おうまじか』
『がんばる』
その後黒のVネックにジーンズの楠橋と合流し、お互いの私服を茶化しあった。
「白いシャツって柄じゃないもんね」
「おうおう、そうですよ。どうせ俺は爽やかイケメンにはなれん。でもお前もそんな清楚なキャラやなくない?俺は好きやけど」
お前の好きそうな服装にしたからなと思いながら楠橋の足を軽く蹴った。
私達は選手の保護者達や応援団から少し離れたところに座って試合を見ていた。
校内新聞の記事にするといっても試合の結果とその場の雰囲気を覚えておけば大丈夫だろうと思った私は試合が終わると早々に会場を後にした。
梅雨明けしたばかりの蒸し暑さと人の熱気に耐えられなかった。
結果はうちの高校の負けだ。そこそこいいところまでいったものの国公立と私立では結局部活への力の入れ方が違う。
最後に得点を決めたのは例の才能人だった。そう、例の木下くんだ。
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