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「それで、月見を?」
”ええ、みんなで月見の宴をばしようと思ったの。ヨコジュンプロダクションの整理も一段落したし”
電話の向こうでそれを言い出したのは、失踪した高名な不世出のギャグマンガ家、ヨコジュンこと横田順弥の秘書だった藤ケイコ、通称”ケイコたん”だった。
驚くべきことに、ヨコジュンはネタ帳を残しており、失踪後も一ヶ月ほどはアシスタントの代筆によって連載を続けられたのだ。その間に、出版社のほうも体制を整えたのだった。
そのためにヨコジュンの失踪による連載の打ち切りによる混乱は、最小限度にだったのである。
超天才ヨコジュンは、突然に極度のスランプに陥って、心労の上に失踪した。そういう”言い訳”が、用意された。
今は数居たアシスタントたちも、それぞれに新しい漫画家の事務所に仕事先を見つけていなくなっている。
「もしかして、ケイコさんも?」
”ええ、みなさんとのお別れ会もかねて・・といっても、それは、オマケですけどね。そろそろ本業に戻らないと、賞味期限を過ぎちゃうので”
「賞味期限って?」
”花嫁修業というか・・めざせ、玉の輿”電話の向こうでケイコは花のように笑った。
「お月見ですか。それは、風流ですねえ、ほ、ほ、ほ」天才発明家の綿引”殿下”博士はおっとりした声で答える。
世界征服を目指した”鼻のタシロ”と、広報部長の”マチャーキ”は特別少年院に収監されていた。未成年の中学生がおこしたあまりに恐るべき”陰謀”に、裁かねばならぬが、逆にどう裁いたものか、大人たちはいまだに混乱していたのだった。
彼らをまともに裁こうとすれば、それにかかわって踊らされた大人たちの悪事と、そしておろかさが明らかになってしまうからだ。そうなれば、日本の今の政権は、簡単に吹き飛んでしまう。それほどの大悪事を、あのタシロはやり遂げようとしていたのだ。
「ちょうど空には、中秋の名月・・か」ケイコからの電話を受けた長髪の林石隆が言った。今や”彼女”は完全に”彼”になっていた。
稀代のカンフーの使い手でありながら、なぜか一時期性転換して女の子になっていたが、あの渦動逆転の後は、男の子に戻っている。
彼は、その時空の乱れの結果、この世界に期せずして漂着した”お時”とともに、この世界の”お宝”を探して旅をしていた。しかし、この”正史”世界が正常化したのを見届けると、彼女はいずこともなく去っていったのだった。
今は、”お時”と行動をともにしていたフリーランスのルポライター犬神明と一緒に動いている。彼らの冒険も、なかなか波乱万丈の物語なのだが、今回はパスということで勘弁していただこう。
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