211人が本棚に入れています
本棚に追加
恋しい人
例年より早く梅雨入りした六月の週初め。
朝から鬱陶しい雨で湿気が酷い。こういう日は教室に男臭い不快な匂いが籠って大変だ。
鼻を摘まんだり下敷きで扇いだりとクラスメイトと笑い合って過ごしていると、担任の笠井先生が若い男性を連れて教室に入ってきた。
「さぁ朝のHRを始めるぞ。こちらは教育実習生の水嶋 雫先生だ。彼にはこのクラスを担当してもらう」
教育実習生?あぁ……そういえば先週そんなこと言ってたな。ふぅん……背筋がすっと伸びて、黒髪が雨に濡れたようにしっとり艶やかだ。それに中世的な綺麗な顔立ちが俺好みかも。
あれ?でも何だか見覚えがあるぞ……まっまさか!
「えっマジ?」
椅子からズルっと落ちそうになる程、驚いてしまった。
「はじめまして。:水嶋 雫(みずしま しずく)です。皆には古文を教えます。二週間という短い期間ですが、どうぞ宜しくお願いします」
落ち着いた静かな声で挨拶する様子に、教室が一気にどよめいた。
「ヒューヒュー♪ 美人な先生だな~まるで掃き溜めに鶴だぜ」
「せんせー!オレ、先生で抜けそ!」
「あぁ~先生からいい匂いが」
むさくるしい男子校に、彼のような男の癖に色気があって美人な教育実習生は、まずいだろう。
「おいっお前ら静かにしろっ、水嶋先生のことを変な目で見るな!」
思わず机をドンっと叩いて叫んでしまった!
「コラッ!黒崎、静かにしないか!あぁ悪いな水嶋。あいつは特に血気盛んでなぁ」
「……いえ」
彼は目を大きく見開き、じっと俺のことを見つめて来た。
視線が交差して確信した。
やっぱりあの人だ。俺がずっと探していた人だ!
最初のコメントを投稿しよう!