平々凡々のわたし

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「中村さーん、休憩入っちゃって?」 作業をしていた事務室に入ってきたのは、この書店の店長の牧田(まきた)さん。 目尻が下がってて、優しい印象の彼は、入社してからの印象もそのままで、とても心地の良い人だ。 書店オリジナルの緑色のエプロンすら彼の雰囲気を具現化したように似合っている。 「はい」 私は使用していたペンの蓋を閉じて、もとの缶の中に戻した。 そのまま、お昼に出るための透明なアクリルバッグに携帯や財布を詰めて立ち上がる。 するといつの間にか私のデスクの前に来た牧田さんは、まだ描き途中のポップをのぞき込んで、ふむふむと頷いている。 「やっぱり中村さんは絵が上手だねぇ。僕じゃ、こんな可愛いイラスト描けないもん」 「普通ですよ。絵が上手い人は他にもたくさんいます」 「そぉ?でも、中村さんのポップ、結構好評だよ」 牧田さんはニコニコしながら私を見る。 彼はいつも誰かを褒めている。 一日一善、じゃないけど、牧田さんからそういうセリフを聞く機会が多い。 それは私だけじゃなくて、他のスタッフにもそうだ。 誰かを差別することなく、良いと思ったことは素直に褒める。 その分、ダメなことは優しい口調でもはっきりとダメだと言ってくれる。 こんなに出来た人はいないだろう。 私は素直に「ありがとうございます」と微笑んだ。
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