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エピローグ
ミカは来日してから二週間後にウリグシクに帰国した。空港までミカを見送ったセナ、陵、仁は出発ラウンジにあるカフェテリアで話をすることにした。セナが言った。
「仁、陵には感謝します。どうもありがとう」
「いやなに、これは俺たち一族の使命だからな」と陵が応えた。
「こちらこそ。僕たち北家の方は兄貴も含め篠原の家を助けるどころか却って迷惑をかけたこともあるし……」
「そんなことないわ。私の勘だけど、北先生はミカちゃんのことを家に伝わる習わしと言うばかりでなく……、特別に思ってたのではないかと感じるのよ」
仁がセナのほうを真面目な顔で見返した。セナは続けて言った。
「学生時代、北先生はミカちゃんと鎌倉研究会でいつも一緒にいて何かと手助けをしていたらしいの。そしてミカちゃんが初めてユースフさんとウリグシクで出会った時も一緒にウリグシクまで行ったのよ。そのくらい大事に思っていたミカちゃんがユースフさんと結婚してしまって、そのことが北先生に変化を与えたのではないかしら」
陵は大きく頷いて言った。
「そりゃ、わかるな。俺もミカさんのファンだし」
仁がやんわりと無視して言った。
「まあ、そういうことがあったとしてもおかしくは無いと思うけどな」
そう言うと仁は話題を変えるように言った。
「ところで、僕はあの薬と銅鏡による幻視について、それだけでは無いような気がする」
「それは何かしら」とセナが言った。
「幻視の世界に行った人は頭の中で起こって欲しいこと、または絶対に起こってほしくないことを見るのだけど」と仁が言った。
「そうね」とセナが言った。
「僕が思っているのは、その頭の中の出来事は本当にイメージだけなのだろうかということなのだ。……頭の中のイメージは現実に起こるのではないのだろうか」
陵が言った。
「言っていることの意味がわかんないな。イメージはあくまでもイメージだろ」
仁が応えた。
「僕もそう思っていた。でもウリグシクの古文書による伝承にも、幻視状態で念じられたものが現実に発生すると書かれている……そして」
セナはだまって聞いていた。
「そして、今回も銅鏡を手に入れたいと陵と念じた。そうしたら結局はあんな形で実現した。これはこの幻視には夢を現実化させるような力があると思うんだ」
セナは暫く考えて言った。
「ミカちゃんは否定しているけど」
「僕には、幻視の世界で暴れた僧侶樹音の化身の魔物は現実に現れたと思える。一度廣元さんに教えてもらう必要があるけど、これこそが一族に伝わる魔物を呼び出す方法ではないかと考えているんだ」
「ミカちゃんの話によれば、鎌倉の古文書の中にも魔物は時々出てくるわ。でも、それ以外に実際にそれに出くわしたという話は聞かない。魔物は人の心の中に生まれる強烈な負の意識のことではないのかしら」
仁は暫く黙って、やがて「そうかも知れないけど。僕には……」と言った。そ
れ以上誰も言葉を発しなかった。三人は黙ったままカフェテリアから窓越しに見える空港の景色を眺めていた。
対馬では海岸近くで道路工事が行われていた。道路建設のため、山の麓を少し削って道路幅を確保する必要が出て来た。そのためブルドーザーやショベルカーで土を掻き起こし、掘削していた。掘りおこした土の中に古いひとの骨らしきものが見つかった。
その人骨は科学的年代判定の結果、七百年ぐらい前の鎌倉時代のものと判明した。骨と一緒に儀式に用いられたと思われる銅製の円盤も出土した。調査をした関係者を悩ませたのはその人骨の長さで、骨を繋ぎ合わせると身長が三メートルにもなってしまうことであった。調査関係者は、これは複数のひとの骨が混ざり合わさって埋もれていたものと結論づけた。
そのあたりは魔境の伝説の世界で悠馬と呪怨が戦った場所であった。
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