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父の心痛 3
「ああ、こんなことならおまえをもっと社交界に出して経験を積ませておくべきだった。まさか田舎のグラットコールのじゃじゃ馬娘に、こんな華々しい機会があろうとは……」
「父様ったら、今からそれじゃ当日までに胃に穴が空いちゃうよ」
悲嘆にくれる父を見ているとあまりに大袈裟に思えて、ついロアは笑ってしまった。男爵はそんな娘を見て大きなため息をついた。
「まったくとんだことになった。今既にもう胃が痛いよ」
「もう? 大丈夫?」
男爵は何も言わずにただ頷いた。
「じゃあ父様へのウィンフィールドのお土産は、胃の薬ね。マヌエラたちにもお土産買ってきてあげるからね。もちろんシリュッセル達にも!」
髪と顔を拭き終えた使用人のマヌエラに、ロアは楽しい気分でへらりと笑いかけた。
そんな娘を半眼で見つめてから、男爵は姿勢を正して低い声で言った。
「マヌエラ、ロアの支度を整えたらすぐにレッスンだ。礼儀作法と、社交ダンスも磨いてやってくれ」
「えー!?」
こうなることを予想もしていなかったロアは、悲鳴を上げた。
「お言葉ですがトラウゴット様、元々ないものは磨けません」
マヌエラは眼鏡の奥からロアを一瞥して、男爵の苦悩に追い打ちを掛けた。
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