わたしは、

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校門を出て、暫く歩くと前を歩く晴を見つけた。 退屈そうに髪を弄りながら景色を眺めている。声をかけずに追い抜くか、このまま後ろを歩こうかとも思ったが、途中まで同じ道のりだから気まずい距離のまま歩くのには少し長すぎる。 礼は仕方なく先を行く晴に声をかけた。学校の外だからまぁいいだろう。 直ぐに会話は途切れてしまったが、一応長い付き合いになるから晴ならば沈黙もさして気にならない。何度も一緒に歩いた街並みを、2人で並んで歩いていると、少しだけ懐かしい気持ちになった。 前にこんなふうに一緒に帰ったのはいつだったっけ。中学の頃、ある事件をきっかけに晴が注目を集め始めてから少し疎遠になり、高校で外部生が入ってくると一緒に帰る機会はさらに減った。 何か話したいと思い、手持ち無沙汰そうに髪を弄っている晴に話しかける。 「晴は普段、誰と帰ってるの?」 共通の話題なんか思い浮かばないので当たり障りの無いことしか話せない。 「1人だけど?どうかした?」 「いや別に……普段どうしてるのか、知らないから」 「特に何もしてないよ、どうしたの?」 晴が少し訝しげにこちらを見る。真っ直ぐ見られると居心地が悪くて礼は目を逸らした。 「よく考えたら、一緒に帰るの久しぶりだなって思ってさ。」 「そうだったっけ?」 晴は髪の毛を弄るのをやめてわざとらしく首を傾げる。 「覚えてないならいいです」 少しでも感傷に浸ったことが恥ずかしい。からかわれる前に話題を変えようと考えたら、先程のテストのことを思い出した。 「そういえば世界史の問題……あれ、何だったんだろ。昨日のツイーターのやつと……あ、ごめん、ツイーターっていうのはね、みんなやってるSNSなんだけど…」 浮世離れした晴は一般高校生の興味関心とはだいぶ離れている。知らない事も充分想定して話さなければ。 晴はそんな礼を見てにやにやと笑いながら、 「ああ、昨日の夜突然現れて、すぐに消えたあれでしょ?全く同じだったね……もしかして礼、私がツイーターすら知らないと思ってたの?」 と、からかうように言ってきた。はいはい、知らないと思ってました。まだちゃんと現世に関心があるみたいで安心しましたよ。 「別に。知ってるなら話が早くてよかった。あれ、誰の仕業なんだろって気にならない?」 「別に?先生が犯人探しはやめとけって言ってたでしょ」 あんたが素直に先生の言いつけを守るとは思えないんだけど。 「礼……今失礼なこと考えてたでしょ。まぁいいや。犯人はいつテストの写メを撮ったんだと思う?」 「ええっと、昨日の教員会議の時かな。それ以外だと多分長浜の目があるから」 「その通り。そこまで分かってるのにまだ犯人が気になるの?」 きょとんとした顔で晴が聞いてきた。腹が立つが、もしや、と思い礼は尋ねてみる。 「……もしかして、誰だか見当がついてるの?」 「まぁね」 晴はあっさりと答えた。 「教えてよ」 ここの交差点で晴とは反対側に行くことになる。礼は立ち止まって晴の答えを待った。 「うーん、どうしようかな。」 晴は口元に手を当てて少し考える素振りを見せた。夕焼けを背にしているせいで俯いているその表情は伺えない。少しして顔を上げた晴は、 「そうだなぁ、教えてあげてもいいけど、今日は家で勉強したいから……明日の朝ラウンジで教えてあげる。」 と言って微笑みを浮かべた。そして礼が何も言えないうちにくるりと踵を返し、「また明日ね、礼」と言って去っていった。 晴はわざと真相を明日に持ち越した。 あんたのそういう所本当に嫌い……心の中で呟いてから礼は去っていく幼なじみの背中を見送った。
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