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翌朝、礼は言われた通りに早めに登校し、ラウンジで晴の姿を探した。少しして見つけた晴は質問の学生達の群れの中で1人ゆうゆうとパックのカフェオレを飲んでいて、礼の姿を見つけると、ニヤリとして言った。
「おはよう。礼。大丈夫。まだ15分しか待ってないよ」
「おはよう。別に遅れたとは思ってないから」
礼は晴のからかいを無視して荷物を置きながら本題に入る。
「それで、テスト流出の犯人って誰なの?」
「まぁまず座ってよ」
晴は飲み終わったカフェオレを脇において礼の為にスペースを作る。礼が隣りに腰掛けると、
「最初に状況を整理しておこうか。」
と言った。礼は昨日の話聞いた話を総合してみた。
「テスト問題は長浜が職員室で保管していた。しかし、どこかのタイミングで誰かに盗撮され、夜にツイーターで出回った。多分だけど、盗撮が行われたのは教員会議の時。」
「そうそう。うーん、やっぱりもうこれだけ情報が揃えば誰だかなんてすぐに分からないかな?」
分かったらこんなに早く学校に来ていない。
「ちゃんと説明してよ」
晴は分かったよ、と言って改めて話し始める。
「いいかい、犯人の条件は3つだよ。長浜が会議で机を離れるタイミングを知っていること、職員室にスマホを持ち込めること。それから、職員室にいて違和感がないこと。」
「そんなの全部誰でも当てはまるじゃん。会議のことは朝聞けば分かるし、スマホもポケットに入れれば持ち込める。それに職員室はうちの学校の人間なら誰だって入れるから違和感なんてないでしょ」
礼の反論に、晴は
「そうかな?今はテスト期間だよ?」
と言ってきた。テスト期間。礼は大事なことを見逃していた。テスト期間中は生徒は職員室に入れない。だからインターホンで呼び出し、ラウンジで教師とのやり取りを行う。
「気付いたみたいだね。生徒は立ち入り禁止だから、生徒が職員室内にいたら目立ってしまう。したがって、犯人は教師か、それに準ずるものということになる。そして、デスク周りにいて違和感のない私達の学年の先生達は昨日会議をしていた。教育実習生で部外者の1人を除いて、ね」
淡々と、晴は続けた。
「つまり、犯人は北里先生だよ」
「そっか……試験監督してたし、テストの保管場所くらい知っててもおかしくないし、万一触っているところを誰かに見られても不自然には思われない」
「そう。それに、多分だけど彼女が犯人って分かっていたから先生達は犯人探しを止めさせたんじゃないかな」
たしかに、言われてみれば筋が通っている。テスト期間中であることを考慮すればすぐ分かる事だ。噂を聞いた時、先生達はすぐに気付いただろう。
しかし、礼にはどうしても納得がいかないことがあった。
「北里先生が犯人なのは分かったけどさ……なんでそんなことしたんだろ、バレたら先生になれないのに」
「だいたい想像はついてるよ。私は放課後に先生に話を聞きに行くつもりだけど、礼もくる?」
「話を聞いてどうするの?」
「さぁ?どうすることも出来ないよ。ただ聞きたいことがあるから行くだけ」
「なんでわざわざ……」
という礼の問いかけに、どこか寂しげな顔で晴は
「多分、今日聞かないと二度と聞けないから、さ」
と答えた。
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