雪合戦

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「君継が嫌だと言っても俺達は受け入れたりしない、とっとと着替えて誰かにおんぶされろ、今なら3人の中から誰に背負われるか選ばしてやる」 福田がわざとらしく明るい声を出すと君継は「いらね〜」と吐き捨てて制服を脱いだ。 君継は随分遅れて参戦したのかズボンの裾が濡れて、後はシャツが血で汚れているだけだ。 やっと暖房が行き渡って来たけどまだ息の白い部屋の中で……何故一気に全部脱ぐのか。 シャツを脱いでズボンを脱いで靴下も脱いだ。 パンツ一丁…… 「君継……寒く無いのか?」 「昨日で慣れた」 「うん、昨日は寒かったけど……」 血を吸った雪解け水が君継の栗色をした髪を伝って雫になり、首を流れて鎖骨に溜まった。 「誰か…タオル取って、血が垂れてくる」 ……迂闊に君継の生着替えを見ていたせいでそこにいた3人ともが固まっていた。 君継とは数え切れないくらい一緒に風呂に入ったし、数え切れないくらい裸を……素っ裸を見てきた。 数は減るけど久本や福田だって同じだと思う。 「広斗?何してんだよ、早く!チョロチョロと水が垂れて来てくすぐったい」 「あ?ああ、タオルね、タオル。タオルってどこだ?久本が持ってたよな」 「ああ、そう、そうだ、戸棚に入ってたから、新しいの取ってくる」 らしく無い慌てっぷりで保健室の戸棚に走った久本と、まだ口を開けたままの福田も感じたらしい。 何だか君継が妙に色っぽいのだ。 かなり血が出たせいか肌が異様に白くて、それなのに唇だけが女子のリップを付けたみたいに赤い。 力の抜けた目はどこも見てないように要領を得ずにトロンと惚けている。 知っている君継とは違った。 顔とか裸じゃ無いのだ、濡れて張り付いた髪から、憂いを含んだ瞳から、気怠い色をした溜息から、艶かしい匂いが立ち登り、見ていると心拍数が上がる。 「何?お前ら何で見てんの?」 「いや……怪我は?痛く無いか?」 「ん……ジンジンしてよくわかんない」 「あっ君継!」 体操服のズボンを履こうと立ち上がりかけた君継を惚けていた久本が止めた。 久本に抑えられた肩を捩って、不機嫌そうに「触るな」と振り払った君継に、集まっていた視線の意味を悟られたのかとドキっとした。 「何なの?」 「いや……急に立っちゃ駄目だ、まだ脳が揺れて瞳がグラグラしてんだろ、あんだけデカい石が頭に当たったんだ、大人しくしてろよ」 「俺は大丈夫だ、それから家に帰る前に広斗ん家に行くからお前らは来なくていい」 「え?」 さっさと体操服に着替えて行く君継は服を着終わるといつもの君継に戻っていた。 勝手に決めて勝手に動く。 君継だから仕方ないけど放っては置けない。 でも触らせてくれないから後を付いて行くしかない。 ベッドから立ち上がると左に傾いて壁に当たる、また歩く方向を戻しても左に寄って行く。 まだ全然脳震盪から回復してないってわかるから、笑ったりしてられないけど面白くて、そのうちに誰かが笑い出し、自転車置き場に来るまでの間に四人の中で嫌な空気が無くなっていた。 君継がいれば楽しいのだ。そこにいてくれさえすれば嫌な事すら面白くなる。 それは昔からそうだった。 だからこそ後ろ暗い濁った感情から君継を守らなければと強く思う。それは久本も福田も同じだろう。 三人の目が合って無言の合意を交わした。
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