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繁森高校の校長。
生徒指導の山下。
君継のお父さん。
会社から飛んで帰ってきた母。
橋下の父親が揃った所で警察に事情を聞かれた。
見た事を話すだけなのに、よく考えたら知ってる事なんて殆ど無い。
八雲はその場にいなかったし、犯人は吸血鬼です……なんて言えない。
部屋が別々だったから分からないけど、橋下も何も言わなかったみたいだ。
1日経っても君継は見つけられないでいた。
沼に棒を刺して中を浚う。草むらの中やそこら中の溝、放置された箱……そんな所を捜索するのはやめて欲しかった。
君継はもう生きていないと決め付けられているみたいで見ていられない、考えたく無い。
学校はまた休校になってる。
久本や福田から大量のメッセージが届いていたけど言える事は何も無い。
既読のまま無視をしていた。
もう全部自分達で判断できるのに、何故なのか現場検証にまでも親が立ち会わなければならない。
遺留品を探すためなのか、点々と続く大量の血を追って沼の水が全てポンプで汲み出されて行くのを見ていた。
泥の混じった水を重そうに吸い出すポンプは苦しそうにズルズルと喘いでいる。
そこに無残な姿になった君継が横たわっているのでは、と心配した母は倒れそうになってる。
さすがと言うか強いって言うか、君継の両親は仕事があると言って来てない。
何故なのかわからないけど、橋下とはあの後何も話したりしていなかった。
話す事が何も無いのだ。
……何が起こったのかわからないから……。
こんな所にいても何もする事が無い。
沼の中に何かあっても君継がそこにいなけりゃ意味はない。
こうしている間にも君継が遠くに行ってしまいそうで、もっと別の所を……駅とか道とかホテルとか空き家の方を早く探して欲しくてイラついていた。
「ポンプの音にエアが混じってきましたね」
「そうだな…」
橋下も同じ事を考えていたのだろう、沼に頭を突っ込んだ太いホースがブルッ、ブルッと震えだすとやれやれと言って立ち上がった。
「何だ?」
「何ですかね…」
藪の中を攫っていた捜査員までが手を止めて沼の周りに集まりザワザワとしていた。
まさかと、そんな筈は無いが入り混じって背中が寒くなった。
走り寄ってみると………目に入ったのは巨大な桜の根っこだった。
沼の直径は10mも無いがそれでも異様だった。
縺れ合う腸のようにうねうねと絡み合い沼の全体に蔓延っている。
桜の木は通常根が小さいそうだ。
だから強風に弱く、根元からごっそり抜けて倒れてしまったりする。
バケ森の桜は水の無い沼の底に巨大な根を伸ばし、それはまるで桜の内臓に見えた。
そして見つかったのは根の間に挟まった片方だけのスニーカーだった。
赤いハイカットのバッシュ……鑑定なんかしなくたってわかる、それは君継の物だ。
君継が残した物。
それは片一方だけの靴と落ち葉や土がたっぷりと吸った大量の血液、そして小さな肉片。
どう足掻いても、万全の用意をしていたとしても、通報してからあの短時間で、流れ落ちる血液の痕跡を隠すのは無理な話なのだ。
大量の捜査員が横並びになって舐めるように道路を這い、君継を連れて消えた奴らがどこを通ったかを見つける為の痕跡を探したが、不思議な事に沼の手前から続く血の後は、老桜の幹にべったりと赤を残し、そこで途切れている。
結局森の周辺には一滴の血痕も、君継の影も、何も、手かがりなる様な物は何一つ見つからなかった。
それからひと月、ふた月、そこで捜査本部が縮小された。
ふた月を過ぎても、あの君継を担いでいた綺麗な女が誰だったのか、わからないままだ。
八雲も学校の書類や住民票と戸籍を調べても何もわからない、
ラブホテルの隣に建つマンションを尋ねても、見知らぬおじいさんが「もう一年以上そこに住み、毎日ここで暮らしている」と言い張り、近隣の住人も、不動産屋もそう証言をした。
そして3ヶ月目
君継の残した血液の量は軽く致死量を超えていた。積極的な捜査は無駄だと判断されたのか……
君継を見失ったまま、田舎町に出来た捜査本部は解体された。
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