雪合戦

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もう間に合わないかと思った時だった。 正に飛ぶように走っていた君継が突然軌道を変え、横飛びにジャンプした。 足を滑らしたにしては変だった。 振り上がった足がバラついて肩から落ちていく。 バウンドした体がザァーと滑って雪に埋まってしまった。 「やった!転んだぞ!」 誰かの歓声が上がったが様子がおかしい。 君継の事だから転んだ反動で起き上がってまた走り出しそうなのに倒れたまま動かない。 「君継?!」 駆け寄ったが君継の後を追っていた一年が1番早かった。倒れる君継の隣に座り込むと叫び声を上げた。 「誰か!先生を呼んで来て!血が!深森さん!!」 みんな見ていたのに勢いが止まってない、どどめを刺そうと飛んでくる雪玉に久本が大声でやめろと叫んでいた。 「君継っ!!」 君継は倒れたまま動いてない。頭の横からは嘘みたいな血飛沫が長く伸びている。 側には…… 拳半分程の大きな石が血の後を付けて転がっていた。雪玉の中に誤って握り込んでしまう大きさじゃ無い。 「これは……」 パッと周りを見回すと桧山が強張った顔付きを隠すように視線を外し、呆然としている満島の後ろに隠れた。 「あいつ……」 「広斗!そんなの後だ!まずは保健室に連れて行って怪我の状況を見よう!それから病院に連れて行くか何なら救急車を呼べばいい」 久本に肩を揺すられてハッとした。 「深森先輩は俺達で運びます!」 ワラワラと追いついて来た1年が上官を守るように君継を取り囲み、伏せたまま動かない体をひっくり返した。 「うわあ……どうしよう…」 一際体の小さな一年が驚いて尻餅を付き、怯えた声を出した。 君継の顔半分が血で濡れている。 どこに怪我をしたのか傷口は見えず、意識は無かった。 「大勢で運ぶと時間もかかるし落とすかもしれないだろ、誰かが背負った方が速い、広斗!頼めるか?俺は一足先に保健室に行く」 「わかった、誰か……1年!俺の背中に君継を乗せてくれ」 久本が走って行く背中を見ながら、しゃがんで背負う用意をすると、「どけ」と割り込んで来た一年の橋下が一人で君継を抱き上げて背中に乗せてくれた。 「阿部先輩、これ…救急車を呼んだ方が良く無いですか?」 「うん、でもこの雪だ、呼んでも来ないかもしれないだろ」 「……でも、意識が無いんですよ」 橋下はいつもと変わらぬ人をおちょくるような口調だったが心配しているのは伝わってくる。 みんな怖いだろうが君継から滴ってくる血の量を見れば誰だって怖くなる。 肩に掛けられた君継の腕には意思が無く、ダランと横に落ちてしまう。 土が混ざった雪の残骸は血を吸って……それこそスイカを絞ったみたいに赤くなってる。 揺らさないようそっと立ち上がろうとすると福田が助けてくれた。 「君継がこんな怪我するなんて初めてだな、おい、俺が支えてるから広斗は出来るだけ静かに急げ」 「ああ……ゆっくり走るぞ、君継が落ちないように支えてくれ」 福田の言う通り、昔っから君継は無茶をするし、乱暴だし、とんでもない所から飛び降りたりするが身が軽く運動神経がいいからか、不思議と怪我をしないのだ。 自転車ごと川に飛び込んだ時も、塀を崩した時も、校舎の三階から落ちた時さえ擦り傷しか負ってない。 福田も久本も深山も、勿論俺も巻き込まれたり、乗せられたりして君継の真似をした結果、怪我をした事がある一味だ。 「なあ広斗……これは…わざとかな」 福田が信じられないって顔で呟いた。 仲は良く無いし、中学の辺りで袂を分けた感はあるが、石入りの雪玉を投げた満島や桧山も同じく、一緒に遊んだ幼馴染の一員なのだ。 ここまでやるなんて信じられなかったが桧山の後ろ暗い目を見たのだ。
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