ラブホテル

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ラブホテル

窓ガラスを叩く激しい雨の音で目が覚めた。 雨は厄介だ。降り始めの小雨ならいいが、学校までの近道(もり)は舗装されていない地道なので雨が降れば泥濘(ぬかる)んで靴が泥だらけになる。早目に起きて遠回りをしなければならない。 寒くて嫌だがベッドから足を出した。 八雲のマンションに置いてきた靴は昨日の夕方遅くに部活を終えた広斗が取りに行き、「階段の途中に転がってた」って笑いながら持って来てくれた。 問題の進路希望プリントはまだ鞄の中に入ったままだ。 「恥ずかしいのは俺じゃなくてあっちだよな」 学校で八雲に会えばどんな顔をしたらいいか考えたが、どう考えてもこっちが卑屈になるなんておかしい。チンコと生尻を晒して、恥ずかしい汁を晒して、特殊な趣味とその相手まで特定した。 何が何でも授業が始まる前にプリントを渡しておかないとせっかく勝ち取った0.5回の免責を無くしてしまう。 男同士でエッチな事をしていても煙草を吸っていてもこっちが卑屈になったり遠慮したりする必要は無い。もし八雲が今日も学校に来なかったら…もう一回マンションまで行ってポストに入れるくらいはしようと決心して家を出た。 「わ、傘がうるさい……」 バタバタと、アスファルトを刺す大粒の雨は地面に跳ね返りズボンの裾を濡らしていく。 横殴りの降り方に傘は用を成してない。走った方がマシだと思い始めていた所に顔にまで蓋の付いた完全装備のレインコートを着た女子が自転車を止めて後ろに乗れと誘ってくれた。 全身を覆うオーバー型のレインコートは天界の使者みたいだ。 これは正規の通学路に付いてくる特典だ、大概誰かが拾ってくれる。天の助けを有り難く受け止め後部の荷台に跨った。
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