喧騒から抜け出して

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「おはようございます!」 イヤホンを外しながら習慣通り玄関から声をかけるが、案の定返事はない。 これもいつものことだ。 靴を脱ぎスリッパに履き替えた後、まずは博士の居場所を探す。 昨日は、遅くまでずいぶんと熱心に研究論文を読んでいた。 きっとそのまま寝てしまったのだろう。 右側の居住スペースを無視して、左側に続く廊下をつきあたりまで進む。 “所長室”と書かれたドアを二回ノックした後、 「失礼します!」 と部屋のドアを開けて、私は思わず息を飲んだ。 「……誰?」 ようやく声を絞り出した後、少しだけ部屋の状況がクリアに見えた気がした。 手にワインボトルを握りしめ、唖然とした様子で私を見つめる男。 机にうつぶせになっている博士。 真っ赤に染まった机の上…。 「人殺っ……!」 叫びかけた私の元に、鬼の形相でかけてきた男は慌てて私の口をふさいだ。 あぁ……私も殺されるんだ。 諦めにも近い感情でギュッと目をつぶると、男は私の口から手を離し 「なんか誤解してない?」 と呆れたように言った。 恐る恐る目を開けると、彼はふーっとため息をついて 「博士に聞いてない?今日からお世話になります。新城大輔」 と私に向かって手を差し伸べた。
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