喧騒から抜け出して

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宮道楽斗。 代々医師の家系という宮道一族の中で唯一その道を外れたその人が、私たちの雇い主、つまり博士だ。 道を外れたと言っても決して医師になれなかったわけじゃない。 余裕で医学部を突破できる成績でありながら、どうしても他にやりたいことがあると言ってこの道を選んだようだ。 フィクションの世界で博士というとひげを携え、眼鏡をかけた白髪交じりの男性が想像されがちだが、うちの博士はまだ42歳。 テレビの特集を組まれるくらいには綺麗な顔立ちだし、物腰も柔らかで怒っている姿も見たことがない。 御曹司で穏やか、頭脳明晰でイケメン……。 それだけ揃えば非の打ち所がないと言えそうなものだけど…。 部屋中に散乱した書類の束を見て、私は大きくため息をついた。 「博士は、本当に研究にしか興味がないんです」 そう言って、床から一枚の紙を手繰り寄せた私は、新城さんにそれを渡した。 「時空移動……?」 ぽつりとつぶやいた後、彼は答えを求めるようにこちらを見た。 「いわゆるタイムトラベルです。表向きは近代史の研究と言っていますが、博士は本気でタイムマシーンを作りたいと思っているんです」 渡した紙を凝視し黙り込んだ彼に 「できないと思っています?実は私も。でも、表面上は理解を示さないと。博士とはうまくやっていけませんよ」 と言った後、私は姿勢を整えた。 「私は古田和奏。年齢は24歳。少々ワーカホリック気味の助手です」 こちらが軽く頭を下げると彼もまた姿勢を正し 「名前はさっきも言ったけど、新城大輔、25歳。……この間まで学生でした」 と答えた。
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