喧騒から抜け出して

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「ちなみにうちの博士、世間では道楽博士なんて呼ばれてますけど、仕事に関して妥協が一切ない人なんで、覚悟してくださいね」 私の言葉に彼は表情を変えずコクリとうなずいた。 博士は数年前、近代史の専門家として新聞の取材を受けたことで世間に顔を知られることになった。 たまたまその記事を見た人が、SNSに「イケメン!」と写真を載せると瞬く間にその投稿が拡散された。 それが情報番組のスタッフの目に留まり特集まで組まれた博士は、 「自分の研究分野が少しでも発展していけば」 と、立て続けに入ってきたオファーをほぼすべて受けていたように思う。 最初は世論もそんな博士を面白がっていたけれど、飽きが出始めると 「この人研究の話しかしないからつまらない」 「どうやら宮道一族の子供らしい」 「医師になれたのに、やりたくないと蹴ったらしい」 「金に困らない人の発想」 「宮道楽斗だけに”道楽”博士だな」 という具合に、博士への見方を変えていった。 そうこうしているうちにメディアの方も、博士への興味を失っていったようで、最近では新たなオファーが来ることもなくなった。 少しは落ち込むかと思いきや、平穏な日々が戻ってきて研究に没頭できるようになった博士は、むしろ上機嫌で 「道楽博士ってうまいこと言う人がいるよね!」 と笑っている。 博士にとっては研究以外の世の中はどう変わろうがほとんど興味のないことなのだろう。
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