だいにぼたん

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 季節は夏。学校は夏休みに突入しました! 学生たちはというと。家で惰眠を貪る者(ゴロゴロ大好き!)、宿題をコツコツ消化する者(キミはえらい!)、バイトに勤しみ、お小遣いや授業料を稼ぐ者(キミもえらい!)、部活で汗を流し、インターハイや甲子園に全力投球する者(頑張れ!)……あげるとキリがありませんが、それぞれがそれぞれの夏休みを過ごしていました。  そんな中。ある一人の男子生徒は駅のベンチに座りながら……唸っていました。  彼は農業系の高校に通っており、夏休みにも関わらず畑などの世話で登校していました。彼が通っている学校はビックリするほどの田舎に所在する学校で、電車もバスも一時間に一本あれば良い方。二つの公共交通機関のダイヤの関係で午前六時には電車に乗らなければなりません。  ですが、そんな生活を二年も過ごしていれば慣れっこです。眠たい様子も見せず、いつものように通学していました。ここはバス停と駐車場しかない無人駅。この時間帯はほとんど人もいないため、いつもだったら、バス停前のベンチに座り、鳥のさえずりや蝉の鳴き声などをBGMにバスが来るまでのんびり過ごしているはず……でした。  男子生徒は唸っています。目をつむり、イヤホンで耳を塞ぎ、視界と鼓膜を閉ざし、ここでは絶対に聞いてはならない音をシャットアウトしていました。 山にこだまするものの、ここには近くに民家がないため、近所迷惑を気にする心配もありません。 つまり、周りには何もないから、誰も助けに来てくれないのです。  現実に戻りたくない男子生徒。ですが、目の前の光景と相対しなければいけないので、唸るのをやめ、深呼吸をしました。彼は現実と向き合う決意をしたようです。しばらく静止した後、目を開くのとイヤホンを取ったのはほぼ同時。彼は眼鏡越しに何と向き合ったのでしょうか? 「おい、すり身ヤロォテメェ!! ずいぶん待たせやがって!! 地獄を見る準備は出来たかアアン!?」  場にそぐわない爆音と、前髪をリーゼントにセットした学生が十人ほど。男子生徒こと別名すり身ヤロォは不良たちに囲まれていました。と言っても、不良たちが乗っているのは法律に則りバイクではなく原動機付自転車(以下原付)で、騒音は原付に取り付けたスピーカーから流れている録音したバイクの音。更に言うと、リーゼントというと厳つい少年をイメージしますが、少年ではなく華奢な体型の少女たちです。長スカートを履いていますが、短いソックスが今風ですね。 「……準備が出来ました。焼くなり蒸すなり好きにしてください。おすすめは茶碗蒸しです」  怯えた声色ではなく、本当に覚悟を決めたらしく、落ち着いた声色。すり身ヤロォは両手をあげ、無抵抗のポーズをとります。それを見て、リーダー格である少女は舌打ちをします。彼の態度が気に食わない模様です。 「今のボスに命令されたから来たけどさぁ……。アンタにはガッカリだよぉ……」  乗っていた原付を停めてそれから降り、すり身ヤロォの前に立ち塞がります。二人の間にあまり身長差はなく、若干すり身ヤロォの方が高く見えます。 「アンタには昔世話になったからなぁ……ちょっと殴らせろや……いや、殴るより蹴った方がいいなぁ……」  ニヤニヤと下品な笑みを浮かべるボスリーゼントは、彼の横に立ち、数十メートルほど後ろに下がりました。立ち位置を決めたのでしょうか、そこでぴょんぴょんと飛んで、気合い充分のようです。  ジャンプが終わり、地面に着地し、助走をつけて彼に向かって走ってゆきます。一方のすり身ヤロォは少しでも痛みに耐えるために目を閉じるわけでもなく、その目を見開き、覚悟を決めています。運命を受け入れる硬い意志すら感じます。  ですが、吹っ飛んだのは彼でなく、"彼女"の方でした。 彗星の如く現れた第三者が、彼女ことボスリーゼントに飛び蹴りを食らわしたのです。助走をつけたボスリーゼントに同じく飛び蹴りを食らわす……計算しつくされた攻撃です。ボスリーゼントは自分の単車に突っ込み、大怪我……ではなく、結構ピンピンしています。 「ご無事ですか? 先輩」  乱入してきたその人物は、学ランが特徴的で、陽の光に当たってキラキラ光る金髪が目立ちます。男にしては若干高い声です。学ランで騙されそうですが、この人物は女子です。学ランの下はスラックスなので、尚更男子生徒に見えなくもないですが、胸の膨らみが女性であることを強調しています。
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