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 俺は今肉体から出て魂だけとなっている。 そして黒い集団が俺の葬儀に参列している。 学校や親戚の連中まで来ている。あいつが呼んだんだろう、俺としてはいい迷惑だ。 親しかった奴がいるわけでもないのに。 「今日は大雅のために有り難うございます」 あいつは来た弔問客に丁寧に頭を下げていた。 あいつはハンカチを目元に当てている。 ふん、俺を追い詰めておいて泣くなんてどういう神経しているんだか。 腹が立ち俺はあいつに背を向ける。 俺はあいつに仕返ししたくて自殺した。 俺の変わり果てた姿を見るなりあいつは混乱して泣き崩れた。 魂だけになった俺はそれを見て内心ざまあみろと思った。高校入学一週間前というのも想定して行動したからダメージもでかいはずた。 その証拠に葬儀の手続きをする際は、親父に支えられてやっと終わらせたという感じだった。 今まであったうっぷんが晴れてせいせいした。 これで思う残すことはない。 自殺という呆気ない最期になっちまったが、あの世に行ってもいい。 「ざまあみろ」 俺はあいつと親父に言い黒い集団を抜け、俺は外に出た。 そこには一匹のみけ猫が俺をじっと見ていた。 近所では見たことが無い。一体何だこいつ。 「何だよお前……俺が見えんのか?」 俺は恐る恐る訊ねた。 猫は霊が見えるらしいが…… 「いかにもワシにはお主が見えとるぞ、中村大雅」 猫は俺の前で喋った。 あり得ないことに俺は言葉を失う。猫はにゃ~とか鳴くもんだろ。 なのにこいつは何で人間の言葉を話してるんだ? みけ猫は俺の足元に歩いて座った。 「おお、自己紹介がまだじゃったな、ワシはみけ神、みけねこの姿を借りた神様じゃ」 「みけ神……」 俺はようやく声を出すなり、名前の可笑しさに笑ってしまった。 みけねこの神様……まんまじゃん。 生きている時は笑えなかったのに、魂だけになってから心のそこから可笑しくて笑うのも妙な気分だ。 俺が笑っていることが気に障ったらしく、みけ猫は俺の足に猫パンチを食らわせてきた。 爪は出しておらず、肉球が当たっただけだが、笑うのを止めるのには十分だった。 「笑っとる場合ではないぞ、お主は自分がしたことを分かっとるのか」 みけ猫は俺を睨み付けて、真剣に口走った。 俺は緩んだ口元を引き締める。 「お前みたいな猫に言われたくねーよ」 俺は言い返した。 猫神だか何だか知らないが、人間の苦労なんか分かるはずがない。 ましてや俺の気持ちなんて…… 「ワシはお主の行動を全て見ておったからな、お主の苦労も知っておる」 みけ猫は静かに語る。 「お主は母親に嫌気が差し仕返しがしたくて自らの命を絶ったのだろ?」 みけ猫の言葉は正論だった。 俺の内心を見透かされているようだった。 「何でお前が知ってるんだよ、猫のクセに」 「言ったじゃろう、ワシは神様だと」 喋るだけでも奇妙なのに神様というのも普通にあり得ない。 変な話だが、このみけ猫のことをちょっとは信じても良いかもしれない。 「ああ、そうさ俺はあいつへの当て付けで自殺したんだ」 俺は怒り混じりに言った。 「許せなかったんだよあいつのこと、ちょっとでも成績が落ちるだけでも罵るしよ、中三に上がると特に酷かった。勉強以外でも色々言われたからな 食事して俺が話を盛り上げようとするとヒス起こすし、ちょっと家事をミスするだけでも三十分は怒鳴るし、あの時は本気でキレそうになったよ」 思い出すだけでも腸が煮えくり返る。よく我慢したなと自分でも思う。 「自殺しようと決定付けたのは、俺の行きたい高校より更に上のレベルの高校に行かせようとしてたからだ。 正直言って俺には難しいと感じたんだ。 今やってる勉強で手一杯なのに、更に上の成績とれなんてさ 必死に言ったんだ。そこには行きたくないって そこであいつは言ったんだ」 言われたことが脳内に甦り、怒りが波のように俺の体を押し寄せる。 「あんたに発言する権利はないのよ……と あいつを殺したいと思ったよ、俺を奴隷のようにしか見てないんだからな でも殺した所であいつに自分が俺にした事を分からせてやれない、だから……」 「自死を選んだんじゃな」 みけ猫に言われ「ああ」と俺は言った。 高校は親父が説得してくれたお陰で、俺が受けたい高校のままで済んだけどな。 「お主の母親の言動や行動は確かに誉められたものではない、お主が憎しみを抱くのも同情する」 猫に同情されて複雑な気分だったが、気持ちを理解してもらえて安心した。 と、そう思った直後だった。 「しかし、母親の気持ちをお主は知る必要がある」 「何であいつのことを知らないといけないんだよ」 俺は不快な気分で一杯になる。想像するだけで吐き気がしてきた。 「お主は恨みを抱いたまま地上にいれば悪霊になって人に様々な災いをもたらすことになる。 お主が悪霊になれば無関係の者にまで危害を加えることになりかねないが、それでもいいのか?」 みけ猫の言葉が重く感じられた。 あいつに仕返しがしたかっただけで、親父や親戚、学校の人間は関係ない。 気は進まないが、悪霊になるのは御免だ。 「……分かったよ」 俺は渋々言った。 「よろしい、ではついて参れ」 みけ猫は俺に背を向けて歩きだし、俺はその後をついていった。
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