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「しっかし…まさか神社の巫女の一人がこんな子供だったなんて…。
やりにくいなぁ…。」
「でも油断してたら痛い目見るよ?
さっきの見てたら分かると思うけど雫っち無茶苦茶強いし~。」
「まぁ確かにな…。
じゃあどうすればあいつを止められる…?」
「え?そりゃ、悪い子はお仕置きでしょ。
悪い子はいねがーって!」
「あのなぁ…。
真面目にやれ!」
「え~だってキャラだも~ん。」
うん、こいつに頼った俺が馬鹿だった。
「誰が悪い子なの!?
悪い子は泥棒のお前なの!」
「だから話を聞け!」
「うるさいの!お前にはこの正義の鉄槌を食らわせてやるの!
アイスハンマー!」
今度は雫の指先から水が噴き出し、それが凍ってハンマーの形になる。
「うぉ…今度はハンマーになったぞ!?」
「木っ微塵にしてやるの!」
「冗談じゃない!」
振り下ろされたハンマーを、何とか刀で受け止める。
「むむ…生意気なの…!」
「お互い様だっての…!」
言いながら鍔迫り合いの体制から雫を蹴り飛ばす。
「はうあ!?」
同時に後ろに下がって距離を詰める。
「くそっ…どうしたもんか…。」
〈へぇ…ロリコンさんでもやりづらいんだ?
それともロリコンだからやりづら…〉
「その口を閉じろぉぉぉぉ!!」
「え、桐人君…?」
「あ~またか…。」
「いや、何でも無い。
と言うか木葉!お前は勝手にあらぬ方向で察してんじゃねぇ!」
〈まぁ、これはテレパシーだから口を閉じてても普通に送れるんだけどね。〉
「っ…こいつは…!」
〈あ、あと言い忘れてたけど私への返事はわざわざ声に出さなくても伝わるよ。〉
いや、それ絶対忘れてたからじゃないだろ…?
〈まぁ、今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ?〉
言わされてるんだよなぁ…。
〈あなたは彼女を止める為にどうするの?
話しが通じない、おまけに幼児に手を出すのも…あ、そうか、うんそうだね。〉
意味深な間を空けて勝手な解釈してんじゃねぇ!!
〈あぁ…そう言えばもう一発彼女に蹴りを入れていたんだっけ。
手だけで抑えられなくて足まで出すなんて本当にどうしようも無いケダモノだね…。〉
アホか!?人聞きの悪い言い方してんじゃねぇよ!!
と言うかまさか…それを言う為だけに出て来たんじゃないだろうな…?
〈さぁ?どうだろうね。〉
いや…せめて否定しろよ…。
〈流石に私もそこまで暇じゃないよ。
大した理由も無いのにわざわざこんな面倒な事しないよ。〉
ちょっと待って?
まさかとは言わないけどこれがその大した理由だなんて言わないよね?
ねぇ聞いてる?
〈……。〉
今度は返事すらくださらなかった。
〈話しが反れたけど続けても良い?〉
さっきの返事に対しては既読スルーっすか…。
と言うか話しを反らしたのは俺じゃないんだよなぁ…。
まぁもう良いや…。
〈雫は言ってしまえば日向誠よりも厄介な相手かもね。
自分よりも明らかに小さな子供だし、何より彼女に悪意は無い。
そんな彼女を倒すのはあなたが思う正義に反する事、なんだよね?〉
そうだ。
言ってる事は無茶苦茶ではある物の、あいつは一応自分の正義を信じて戦ってるんだ。
〈そうだね、まるで今のあなたみたい。〉
いや…流石に俺はあそこまで横暴じゃないぞ…?
〈どうかな…。
それで?あなたはそんな彼女を倒せる?
それとも抵抗せずに殺される?〉
っ…。
〈あなたにその気が無くても、相手はあなたを殺す気満々みたいだよ?〉
「この私を無視してるんじゃないの!」
再びハンマーを叩き付けようとする雫。
「くそっ…せめて動きだけでも封じられたら…。」
「スキありなの!」
叩き付けられたハンマーを何とかよける。
すると、地面の砂が散らばる。
「あ… !そうか…!
よし、良い事思い付いた!」
「いい加減観念するの!」
「断る!」
そう言って刀を地面に突き刺す。
「ちょ、キリキリ!?」
「桐人君!何を!?」
二人して驚きの声を上げている。
〈全く…幼女の攻撃から逃げて逃げられないと分かったらさっさと降参だなんて見下げたロリコンさんだね。〉
こっちはこっちで事実無根な妄言を上げてらっしゃる。
と言うか君絶対分かってて言ってるよね?
「ふふん!
ようやく観念したの?
今楽にしてやるの!」
「だから断るっての!」
近付いてきた雫に向けて刀を勢いよく地面から引き抜く。
「め…目が!」
勿論そのままバルス!とか叫んだ訳じゃない。
引き抜いた勢いで舞った砂が目に入ったのだ。
「全く…ヒヤヒヤさせないでよ~…。」
よし、今の内に…!
「っ…もう怒ったの…!」
目を擦りながら、雫は怒声を上げる。
「はぁ…お前は何回怒るんだ?」
「うるさいの!
もうムカムカなの!」
「あーそうですか…。」
〈悠長にツッコミなんてしてる場合?
早くとどめを刺したら?〉
言われて改めて刀に手を添えるが、その手に力は入らない。
こんな時になって先輩のあの言葉が脳裏を過ったのだ。
戦いは本来非情な物と。
だから自分の正義の為にこいつを切るのか?
非情にならなければ自分が殺されるから?
…駄目だ。
やっぱり出来ない…!
「クリスタルアイ!」
〈ほら、言わんこっちゃない。〉
上空に巨大なクリスタルのような凍りが現れ、ゆっくりと下降し始める。
「なんだあれ!?」
「キリキリ!
それに当たったらやばいよ!」
「え…?」
「雫っちの必殺技のクリスタルアイは絶対零度!
ちょっとでも当たれば一瞬で凍り付けにされちゃう!」
「なんだって!?」
「ふふん、その通りなの!
私を怒らせた罰なの!
凍り付けになって頭を冷やすの!」
「っ…どうしたら…!?」
〈まだ諦めるのは早い。
あなたには力があるじゃない。〉
でもこの力は…。
〈あなたは大切な人を守りたいんでしょ?
あなたが居なければ大切な物は守れない。
あなたにとって守りたい物は他人だけ?〉
違う。
試練を受けて思い知ったじゃないか。
俺が本当に怖いのは大切な人が居ない世界で生きていく事だと。
他人も居て、そして自分も居る。
そんな平和で何気ない日常を守りたいから戦っているのだと。
〈素直だね。
あなたにとっては他人と同じくらい自分の命も大切な物なんでしょ?〉
!?……そうだ。
俺が守りたい日常は自分だって欠けたら成り立たない。
〈それで良いんだよ。
それが分かった今のあなたならバリアを使い熟せる筈だよ。〉
バリアが…?
「っ…こうなりゃ一か八かだ!
出やがれ!バリア!」
やけくそ気味に叫ぶと、バリアが現れて辺りを包む。
「やった!出せた!」
「むー!人間の癖に生意気なの!
そんなバリアなんてクリスタルアイでお前ごと潰してやるの!」
「折角出せたのにそんな事させてたまるかよ!」
飛び上がると、バリアは球体となって周りを包む。
そのまま刀を雫のクリスタルアイに向けて振り下ろし、両断する。
「むー!お、お前何者なの!?」
「だから…俺は茜からこの刀を借りてるだけなんだっての!」
「…へ?」
さっきまでの勢いなど抜け落ちたかのような、間抜けな声を出す雫。
戦意を失ったからか、真っ二つになったクリスタルアイは消滅する。
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