第四章

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第四章

神社の中には本格的な拝殿があった。 清掃もきちんと行き届いており、実際に使うのかどうかも分からないような祭具もきちんと手入れされている辺り凪の几帳面さが垣間見れる。 「さ、こっち。」 その突き当たり両側にそれぞれ扉があり、左側の扉を凪が開くと、そこはちゃぶ台が置かれた和室になっていた。 その更に奥には台所のような所も見える。 「お前らマジでここに住んでるんだな…。」 「まぁね、意外?」 「いや、なんて言うか…。 別に疑ってた訳じゃないんだが…。 実際に見て改めてそうなんだなぁって感じがしてさ。」 「ま、そうだよね。 ここ、見た目は普通に神社だもん。」 「だよね~。」 こいつ言いながらジンジャ○ール飲んでやがる…。 本当いつもどうでも良い所で準備が良いんだよなぁ…。 「あ、桐人も同じので良かった?」 と思ったらここにあった物かよ! とりあえず雫は遊びに行き、寝ている千里を除いた四人でちゃぶ台を囲む。 「それで?さっきの話しの続きを聞かせてくれよ。」 「その前に改めてあなたに紹介すべき人が居るわ。」 茜がそう言うと、扉を開けて雨が入ってくる。 「あ、お前!」 俺の顔を見ると、ため息を一つ吐いて鞄からスケッチブックを取り出す。 【こうして直接会うのは久しぶりだね。 ロリコンさん。】 「やっぱりお前が茜に余計な事を吹き込みやがったのか…!」 恨めしく睨み付ける。 【小学生をそんな目で睨むなんて本当にどうしようもないロリコンさんだね。】 「誰のせいだと思ってんだよ…?」 ちょっと木葉さん? 無言で私知らないって言いたげにそっぽ向かないで? 凪さんも露骨に顔顰めてるから! 「あなたも察していると思うけれど、私と彼女は協力関係にあるわ…。」 交わされる会話に興味など無さげに、茜が話を切り出す。 「まぁ確かに何と無くそうだろうなとは思ってたよ…。 夢幻を受けた時に試練の事を知ってて、サポートまでしてくれた。 神社の事にも詳しいし、何よりこいつしか知らない筈の不名誉な呼び名をお前が知ってるしな。」 「話しが早くて助かるわ…。 あなたはこれから大切な人に出会い、そして別れ、自殺する。 彼女はそう言ったんでしょ?」 「んなっ…!」 「これも察していると思うけど、彼女の予言は必ず当たるわ。」 「っ…! だからあんな事を…?」 茜は、俺がいずれ自殺する運命にある事を知っていた。 だからその運命を変える為に助けようとしてくれたのだろうか…? あなたに死なれる訳にはいかないからと協力してくれたのだろうか? 「私はあなたを助けるつもりはないわ。」 うん、無いわ…。 こいつはそう言うキャラじゃなかったわ…。 「本当に話が早くて助かるわ…。」 なんかトゲのある言い方だね? 良いよ、もはや気にしないよ…。 「あなたが予言を受けたように、私も予言を受けたのよ…。 この先、あなたと出会って誰かに殺される運命にある、とね。」 「な…!?」 「そして雨の話しでは、その運命を辿るか辿らないかはあなた次第だと言うわ。」 「俺…次第…?」 なんてこった。 雨が言う大切な人が茜かもとは思った。 でもまさか、お互いの未来がこんな形で繋がっているなんて思いもしなかった。 【あなたは知らないと思うけど、彼女はこないだの化け物騒ぎの時にあなたを助けに行ったんだよ。】 「…え!?」 「はぁ…不名誉な話をみよ…。 それにあなたがそうしろと言ったのよ…? 私は大人しく粗茶でも飲みたかったのに…。」 おぉう…恨みがこもってる…。 「そうだったのか…。 でもお前…あの時は…。」 「えぇ…行けなかったわ。 どう言う訳か、私は学校という物に拒否反応を持っているみたいね。」 「拒否反応…。」 「記憶ってさ…。」 ここで凪が口を開く。 「え…?」 「消されても完璧に消える物じゃないんだと思う。 私もさ、バイトしたり街を歩いたりしてるとたまに感じる時があるもん。 明らかに今の自分の物じゃないって分かる記億の片鱗?みたいなのがさ、急に浮かんで悪寒みたいな物を感じるの。」 「それじゃぁ…つまり?」 「そうね…。 凪の話で言うのなら生前の私は学校と言う場所に深い嫌悪感を持っている…と言う事になるわね。」 「悪い…それなのに…。」 「はぁ…同じ事を何度も言わせないでもらえるかしら…? 私があなたに協力するのも、助けようとするのもあなたの為じゃないわ…。 全て自分を守る為、自分の運命を変える為。」 「最初からお前にそこまでの期待なんてしてないっての…。」 そう、彼女がそう言う奴だなんて分かっていた事だ。 「あらそう…。 じゃあどうするのかしら? 私は利用する事はしてもされるつもりはないわよ?」 それを知っていたからこそ、どうするかはもう最初から決まっていた。 「お前との協力は続ける。」 「へぇ…?」 「あと、ただ利用されてやるつもりもないってのに関しては生憎俺も同意だ。 だから俺だってとことん利用してやる! お前が嫌がろうが邪険にしようが関係無い! 文句あるか!?」 勢い良く叫ぶと、盛大にため息を吐かれた。 「はぁ…好きにすれば良いわ…。」 「あぁそうさせてもらうよ。」 〈本当に良かったの?〉 仕方無いじゃない…。 それにあなたもそう言っておいてそれ以外の方法を知らないんでしょ? 〈まぁ…今はそうだね。〉 なら良いわ…。 どうせ彼は一度言い出したら聞かないもの…。 〈ふふふ、彼の事、随分分かってきたんだね。〉 別に知りたくて知った訳じゃないわ…。 彼は私がどれだけ突き放しても問答無用。 遠慮無しに土足で踏み込んでくるような人間なのよ…? 〈そうだね…。〉 そう返事を返し、雨は思っていた。 これまで茜の元に来た人間は、誰一人として彼女に自分から歩み寄ろうとなどしなかった。 最もそれは、彼女が何者も近寄せようとはしなかったからと言うのもあるのだが。 それなのに彼らは、海真桐人、前村千里、染咲木葉は、そんな茜を仲間だと言うのだ。 利用されているだけと分かっていても、けして見放したりはしないのだ。 茜はそんな彼らを未だ理解出来ないでいる。 自分だけの世界に土足で踏み込んで来る彼らを何度も言葉で突き放しながらも、自分の為にと結局彼らを助けてしまう。 そんな風に、物語は少しづつ進んでいく。 たまに間違えながら、新しい道を見い出しながら。 それでも、結局最後の結末は変わらない。 着実にその日は近付いて、早く早くと私を急かすのだ。 だと言うのに、私に出来る事なんて指を咥えて見守るか、たまにアドバイスを送ったりするくらいだ。 なんと無力なのだろう? 現実とはなんと残酷なのだろう? 死神様、私は彼女を救えないのでしょうか? 手を差し伸べる事さえも許されないのでしょうか? 「なるほど、彼が海真桐人か。」 一方その頃、死神は天界から下界を見下ろし、そのやりとりを見守っていた。 「…。」 「彼なら彼女達を、そして雨を救う事が出来るかもしれない。」 彼女は言った。 茜を救いたい。 その為ならどんなことだってする、と。 その為の力は与えたつもりだ。 でも力があってもだから絶対大丈夫な訳じゃない。 何より茜と雨は協力すると言いつつ他人に助けを求めようとはしない。 彼女達個人がそれぞれ一人で成し遂げられるような簡単な話ではないのにだ。 彼女達が居て、そこに海真桐人も居なければ。 その均衡を保つ為には雨だけの力ではあまりにも荷が重いか。 「彼の事は頼んだよ、光。」 「…はい。」
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