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第三章
1
「な、なんだ!そうだったの!?
もっと早く言うの!」
「聞かなかっただろうが!」
そう叫ぶと、木葉にジト目で睨まれた。
自分だって他人の事言えない癖に…とでも言いたいのだろう。
見なかった事にする。
「うっ…お前が紛らわしい事するからなの!」
「何おぅ!?」
お互いに睨み合って火花を散らす。
「う~わ~…この人大人げ無いな~…。」
それを見て呆れ顔でぼやく木葉。
「あーはいはい、雫。
落ち着きなって。」
と、そこへ知らない女性が手を打ち鳴らしながら仲裁に入ってくる。
年は恐らく俺より上。
すらっと長いウェーブのかかった髪は黄緑。
エメラルドのような緑色の目。
「凪なの!」
なっ…こいつが三人目の巫女…!
「全く、いつも言ってるでしょ?
悪い事をしたらちゃんとごめんなさいするんだよって。」
「はーいなの…。」
「それと、人を見かけで判断するなって。」
「どう言う意味だ!?」
「はーいなの!」
おいこらそこのクソガキ、さっきの反省顔はどこにやったんだ。
なんだよそのムカつくぐらいのニヤけ顔は。
「あー、ごめんごめん。
こっちの話しだから気にしないで。」
「気にするわ!」
「まぁまぁ、桐人君落ち着いて…。」
千里が宥めてくれる。
「ったく…それで…?
あんたが最後の一人、嵐の巫女の凪って訳か。」
「そ、で?
そう言うあんたは海真桐人でしょ?
茜から大体の話は聞いてるよ。
何でも正義馬鹿のロリコンだって。」
雫の肩を掴んで後ずさる凪。
あの野郎…!
「違うからな!?
あいつが…いや、その知り合いが勝手に言ってるだけだからな!?」
「ふーん…まぁ良いや…。」
うん、ならその疑いの眼差しはどうにかなりませんかね…?
「はぁ…と言うかお前と雫は普段死神神社には居ないのか?」
考えてみたら俺と千里は合計三回死神神社に行ったのに一度も会ってなかったのだ。
木葉は最初に行った時に一度会っていると言っていたが…。
「え?あぁ…居るには居るんだけどね。
雫はこの通り遊びたい盛りの子供だし?」
「あぁね。」
「で、私は普段はバイトに出てるから帰りが遅いし?」
「え…何?お前普通に働いてんの…?」
「そりゃそうだよ!
私達だって生活費稼がないと生きていけないもん。」
おぉう、出来ればそんな現実的なお話は聞きたくなかった。
まぁ確かに神社の巫女とて多彩な力があっても人間な訳だし、生活費ぐらい要るだろう。
茜は働いてる感じしなかったし普通に考えたら働いてる人が一人でも居ないと採算合わないわなぁ…。
「他の二人は働けないからさ、私が二人を支える為に働いてるって言う訳。」
「え、茜は?
俺と同い年ぐらいだろ?
働こうと思えば働けるんじゃねぇの?」
「…あの子が働いてる所、イメージ出来る…?」
「…いや…。」
あ…そもそも戦力に入れてもらえてなかったわ…。
でもまぁ確かに自他共に認める面倒くさがり&ヒッキーでお馴染みの茜さんの事だ。
オマケに人間嫌いで超が付くほど無愛想。
そんな彼女がファーストフードでスマイル売ってる所なんて全く想像出来ない。
実際に俺が見た事あるあいつの笑ってる所なんて鼻で笑ってる所ぐらいだからね?
普通の笑顔とかそれはもう実際にされたらホラーの域だぞ…。
凪の話を聞いていると、彼女は二人の母親役のようなポジションだと言うのが分かった。
昼間はバイト、帰りに遊びに行ってる雫を待ち合わせ場所まで迎えに行き、帰った後や休みの日は家事全般、と言うのが普段の日課らしい。
「はぁ…すげーな、お前。」
最初に来た時に神社の清掃がしっかり行き届いていたのは多分だからなのだろう。
「いやいや、そうでも無いよ。
多分一番年上だもん、私がしっかりしなきゃ。」
「凪の料理はすっごく美味しいの!」
純粋にすごいな、と思う。
恐らく茜と同じなのなら、彼女とて何も知らずに産まれて来たと言うのは一緒なのだろうから。
それ故の不安もあるだろう、恐怖だってあるだろうし、本当は自分だって吐き出したい思いを抱え込んでいるのだろうに。
「あぁもう可愛いなぁ!」
などと思っていると、当の本人は雫を抱きしめて頬ずりなんかしてる。
こうして見ると、それまでの経緯なんて似合わない親子の…いや、見た目的に仲の良い姉妹のような微笑ましい一幕だ。
「やっぱすげぇよ、お前。
二人の為にそこまで出来てんだからさ。」
「そうかな?ありがとう。」
正直な話、俺の中では死神神社の巫女と言う肩書きにあまり良い印象は無かった。(単純に最初に出会ったのがあいつだからと言うのもあるのだろうが…。)
そしてそれは多分俺だけの認識でもないだろうと思う。
茜の場合は悪い言い方をすれば加害者だからこそ卑屈になる部分があるのだろう。
でもそれなら彼女達とて共に過ごしてきたのだからそれだけの影響があった所でなんら不思議じゃないのではないか?
最初に思った通り、呑気に掃除なんかして普通に生活するまでには、二人にだってそれなりの苦労と葛藤があった筈だ。
まして雫に関してはあんな小さな子供だって言うのに。
多分凪はそんな彼女の為に、そして茜に気を遣わせない為に、自分が一番年上だからと言う理由から良いお母さんポジションを演じ続けてきたのではないか。
そうやって乗り越えていく事で、今こうして温かい日常を作れているんじゃないだろうか。
そんな日常があるのなら、その肩書きだってただ悪いばかりでも無いのかも知れない。
「私はさ、二人の事が大好きだから。
確かに血は繋がってないけどね。
でもこれまで一緒に暮らしてきたんだもん。
二人の事、家族みたいに思ってる。
まぁまだ数ヶ月ぐらいの付き合いだけど。」
「え、数ヶ月?」
「え?あぁ、うん。
まだそう言う部分は茜から聞いてないんだ。」
「…あいつが話すと思うか?」
「うん、思わない…。」
「ですよねー。」
おいおい…同居人にまで即答されてるじゃないっすか…。
「即答するくらいだし、お前もあいつがそう言う奴だってんのは分かってんだろ?」
「まぁね…。
でも私、茜の事も好きだよ。
あの子はそう思ってくれてないだろうけど…。」
そう言う表情は、メックで木葉が見せた表情と同じように寂しげだった。
「そりゃ最初は警戒心バリバリだったし?
普段は確かに素っ気ないけどさ、でもちゃんと私が作った物は食べてくれるんだよ。
最近はたまに家事も手伝ってくれるし。」
言われてみたらあいつは渋々ながら俺が差し出した蜜柑を受け取って食べたんだよなぁ。
「ただ感じ悪いだけじゃないんだよ、あの子は。」
あ、感じ悪いって言うのは認めるんですね。
「それだってあんな力を持って生まれたらあぁなっちゃうのも頷けるし。」
「…なぁ、お前は怖くないのか?」
「…え?」
言った後で後悔する。
急に踏み込み過ぎただろうか?
いくら初対面でこんなプライベートな話しをしてくれるくらいフレンドリーな奴だからって、そんな本人も表に出そうとしない心の弱い部分をいきなり覗こうとするのは、流石に慣れ慣れしいと言うか図々しい事なのかもしれない。
でも、聞かずにはいられなかった。
「全く怖くない。」
「…え。」
「…って言ったら嘘になるかな。
茜がしてる事だって怖い。
自分がどこの誰で、なんでここに居るのかが分からないのも怖い。
でも。」
そこで、彼女は一度言葉を切った。
二人の事が好きだから、一緒に居てくれる人が居るから頑張れる。
そう言いたかったのだろうか?
でも言ってしまえばそれは言い訳でしか無い。
ことわざで言うならくさい物には蓋をせよ。
いつだって人は、弱さを隠しながら時にそれを幸せや喜びで蓋をしながら生きているように思う。
でも自分がそうして本当は吐き出したい感情を我慢してまで、誰かに知ってもらいたい、理解されたい、認められたい、そんな思いに蓋をしてまで。
それでもしている言い訳が、本当に正しいのだろうか?
それは結局誰の為なのか?
そうやって自分の気持ちなんてと嘯いてみて、多分彼女とて思う所はあったのだろう。
それだけで片付けられない何かが、自分の中に確かにあるからこそ、言葉を切ったのでは無いだろうか?
「悪いな、言いたくない事言わせてさ。」
「…いや、良いよ。
茜が協力するって言ってるんなら私も一応仲間なんだし。」
「そっか。」
「うん…あ、そうだ。
私との勝負だけどさ、明日の夕方に死神神社でやらない?」
「あ、おう。」
確かにそれは正直助かる提案だ。
雫との戦いで疲れている今、連戦でオマケにどれ程の実力かも分からないような相手と戦うのはどう考えたって無謀な話しだろう。
「良かった。
私も今日は疲れててさ、帰って夕飯の支度もあるし。
ほら雫、帰ろ。」
「はーいなの!」
「それじゃ、また明日。」
一度だけ手を振り、凪は雫の手を引きながら背を向けて行ってしまう。
「俺達も帰るか。」
「うん、そうだね。」
千里が頷く。
が、木葉は黙って去って行く二人の背中を見ていた。
「どうしたんだよ?」
「え…!?いや、なんか…良いなって。」
木葉が言う良いなが、茜の周りにもちゃんと温かい物があると分かった安心からなのか、自分は所詮他人で、居なくても大丈夫と言う疎外感から来る寂しさからなのか。
とにかく木葉の目はまた寂しそうだった。
ったく…。
「ほら、腹減ったんだろ?さっさと行こうぜ。」
そう言って背中を叩く。
「え、あ…うん。」
そう返事をする木葉は、一瞬戸惑い顔を見せたが嬉しそうだった。
「へへへ、そうだ。
私ちょっと行きたい店があるんだ~。」
さっきの寂しそうな顔から一転、いつもの元気そうな顔に戻る。
「ったく、切り替えの早い奴…。」
「まぁまぁ、私も今日はどこかに遊びに行きたいなぁって思ってたし。」
と、千里。
まぁ確かに結果的に昨日は千里を仲間外れにしてしまったしなぁ…。
「まぁ良いか、行こうぜ。」
「「うん!」」
それぞれに帰る場所があって。
一緒に居る存在が居て。
あいつにもそんな場所があったんだと分かって安心してる自分が居る。
その方が良い、これからもそうあって欲しいなんて言うのは利己の押し付けになるのだろうか?
でも彼女が生きようとしている生き方はあまりにも悲しい物だ。
だからせめてそれぐらい思っても良いんじゃないのだろうか?
まぁ…俺がこう言ったらあいつなら余計なお世話、だの結構よ、ありがた迷惑と言う言葉を辞書で調べてみる事をオススメするわ。
なんてさらっと言いそうだ。
うわ、自分で思っといてものっそ腹立つ。
でもむっちゃ言いそうだ…。
「キリキリ~?何してんの?早く行こうよ~。」
「あぁ、おう。」
ま、たまにはこう言うのも良いかぁ。
今日は千里も居るし…。
…なんて思ってた時期もありました。
え、くどいって?
俺だってまさか二回もこのネタを使う羽目になるなんて思わなかったさ。
木葉の後に続いてこいつが行きたい、と言う店に向かったまでは良かった。
それは俺自身も千里も許可したんだから良い。
問題は行き先。
街中まで戻って、裏通りに入った辺りからおかしいなとは思ったんだ。
「二人とも楽しみにしておいてよ、すっごく可愛いから!」
「そうなんだ!」
可愛いと言うワードに反応したのか、そう返す千里の声も明るい。
明るかったのだが。
人通りもまばらで、夜になればガチで暗い通りに来た時には、嫌な予感が確信に変わり、千里の明るさも一瞬で消えた。
そうこうしている内に辿り着いたのは、ホラー風カフェナイトメア。
え、何?可愛い要素どこ行ったの?
何と言う事だ…。
俺とした事がこいつのセンスがマトモじゃないのをすっかり忘れてたわ…。
一瞬でも可愛いと言う単語に騙されて猫カフェとかそう言う癒やし系の店をイメージしてた俺が馬鹿だった、本当に馬鹿だった。
大事な事だから二回言ったんだぜ。
「アハハ…カワイイネェ…」
うぉ、千里が魂抜けてる!
そのせいで何かヤンデレみたいになってる!
そのままこれが可愛いなんて妄言吐いてる木葉に嘘だッ!!
とか言って怒鳴ってよ。
あ、やっぱ良いです、ほんと怖いんで。
改めて店の方に目を向けると、建物は一昔前の古い家屋をそのまま店にしたみたいな外装。
いかにも廃墟。
と言うのはまぁ雰囲気作りの為の演出なのだろうと思いたい。
俺が千里を気にして入り口に踏み出せずに居ると(けして自分が怖いからじゃない!)
お構い無しに木葉が引き戸を引く。
「あ、おい!」
中は更に薄暗かった。
やっぱり古い家屋の再利用なのだろう。
玄関があり、廊下もある。
明かりはそこかしこに吊されているお化け屋敷とかにもある破れた提灯だけ。
「お~!雰囲気ある~!
静かだし落ち着いた感じじゃない?」
どの口が言ってんだよ…?
雰囲気良くて落ち着けるって言っとけば良い感じのカフェっぽく聞こえるけど実際は最悪だぞ…。
確かに静かだけど落ち着ける要素皆無だろうが…。
今のアイツなら提灯に混ざってぶら下げられてるマネキンの頭部もおしゃれなインテリアとか言い出すんだろうなぁ…。
まさかとは思うけどさっき言ってた可愛いのってこれの事じゃないよね?
もしそうならお父さん本気でこの子の将来が心配だよ?
…ん?それにしても背後が暑いような?
「いらっしゃいませ。」
言われて振り向くと、松明を持ったおかっぱ頭に着物の店員さんが立っていた。
「う、うわ!?は、花子さんが松明持ってる!?」
「いえ…違いますけど…。」
言われてずーんとしてるその店員さん。
おかげで場の雰囲気まで暗くなるとか遺憾の極みじゃないっすか。
「あ、そのごめんなさい。」
何とも言えない空気に耐えられずに謝ると、
「いえ、良いんです。
私、よく間違われるんです。」
良かった間違えたの俺だけじゃなかった。
「私、(はなこ)じゃなくて(かこ)なんです。」
と思ったら名前の方かよ…。
「それと…急に名前呼びはちょっと…。」
「いや、違うからな!?
これは…そう…不可抗力だ!」
「は…はぁ…?」
必死に釈明するも、怪訝な顔をする花子さん。
「わ、分かるだろ、木葉!?」
「ちょっと何言ってるか分からないです…。」
こいつ絶対分かってて言ってやがる…。
「それにしてもかこちゃんやっぱ着物姿可愛いね!」
いや、可愛いってそれの事かよw
「つかお前…その店員さんと知り合いだったのかよ?」
「あ~、うん、一年の御手洗花子ちゃん。
お友達なんだ~。」
うぉそれっぽい名前だな…。
読み方を変えたのはせめてもの抵抗な気もするが、ならそもそも別の名前にしろよって話しだよなぁ…。
「どうも。
とりあえずお席にご案内しますね。」
「あ、おう。」
と言うかその松明どうにかならないっすかね…?
などと思いながら廊下を歩き、案内されたのは居間だったのであろう部屋。
そこに用意された雰囲気そのままの廃墟テーブル席に着く。
「今火をつけますね。」
テーブル中央に置かれた燭台の蝋燭に松明で火をつける花子。
その松明そうする為の物だったんだ…。
大袈裟過ぎるだろう…。
まぁ明かりの代わりでもあるんだろうがどっちにしろ松明じゃなくて良くね…?
などと疑問に思いながら、とりあえずそれぞれが飲み物や食べ物、(意外にも普通のメニューもあった。)を注文する。
「おい千里…大丈夫か…?」
「うん…何とか…。」
良かった、とりあえず帰って来たみたいだ。
「ね、キリキリ。
明日凪っちと戦うんだよね?」
「え、あぁ。」
「分かってると思うけど凪っちも強いよ。
だからそれなりに覚悟しといた方が良いと思う。」
「まぁそうだろうなぁ。」
それは今日クソガキと戦ってみて改めて思い知った事だ。
自分も普通の人間に無い力を持っている訳だが、正直今日あいつが見せた力はその比じゃ無い程に強大な物だった。
それこそ二次元の世界から引っ張り出したかのように無茶苦茶な力。
今回勝てたのだって運が良かったからと言わざるを得ない。
そもそも殆ど自分から攻撃が出来なかった俺を茜が見ていたら、勝ってないし戦ってすらないと鼻で笑うだろう。
「と言うかなんでお前そんな詳しいんだよ?
あいつらが戦っている所見たのか?」
「あ~あいつらが、って言うか雫っちが戦ってる所をね…。
ほら、黒くてかさかさしてる奴と…。」
うお…G相手にガチバトルとか雫さんマジパナいっす。
「なるほど、じゃぁ凪が戦ってる所は見てないのか?」
「うん、でも同じく属性攻撃が使えるみたいだし、強いのは間違い無いと思う。」
「まぁ確かに。」
「茜さん、言ってたね…。
凪さんは確か嵐の巫女で自然を操るって。」
ここで千里が会話に入ってくる。
「そうそう、自然って属性のカテゴリーにするには意味合いが結構幅広いよね~。」
「まぁ確かにな、風とか植物とかだけじゃなくて自然現象とかもそのカテゴリーに入るんなら本当にとんでもない。」
「ま、でもそうだよね。
力を与える存在の茜っちが弱かったら与える側に示しが付かないだろうし、同じく巫女をやってる二人にそれなりの強さがあるのは当然っちゃ当然じゃない?」
「そうか…まぁそうだな…。
でもそれなら、どうしたら良いと思う?」
「う~ん……どうしましょう…?」
「俺が聞いてんだよ…。」
「でもま、今のキリキリにはバリアがあるんだし、バリアを張って相手の出方を窺うのが無難じゃない?」
「まぁそうだな。」
とりあえず明日の方針は決まった。
運ばれてきたジュースを飲んでいると、
「あ、あれ?あんた達何でここに!?」
どう言う訳かさっき帰った筈の凪が居た。
別れた筈のヒロインとバイト先で鉢合わせるってこれラブコメの鉄板パターンじゃないか…。
「あ、凪っちだ!」
「…俺達は見ての通り客だよ。
で、お前は?」
「え、あぁ…私?
いや、実はここで働いててさ。
忘れ物したから取りに帰って来たんだけど…。」
「バイトって…ここだったのかよ…。」
働いている時にではないがこれも充分それっぽい展開なんだよなぁ…。
「ここ、経歴分からない私でも雇ってくれてさ、本当助かってるんだよねー。」
うぉ、ただでさえ欠陥住宅みたいな店だってのにバイト募集の規定まで闇が深いとかカオス過ぎるだろう…。
ついでに凪から聞いた話によると、ホラー好きの店長が壊されそうになっていた古い家屋を買い取って店にしたらしく、ホラー好きにはそこそこ人気なんだとか。
ちなみに店長は御手洗太郎。
花子の父さんだ。
全く家族揃ってなんつー名前だ…。
客が増えてから店員を募集したのだが、わざわざこんな場所で働きたいと言う勇者はあまり居らず、雇う人員を選べなかったから経歴不問と言う条件にしたらしい。
「まぁここでバレちゃったのも何かの縁だし今度働いてる時に来たらなんかサービスするねー。」
うん、もう来るつもり無かったんだけどなぁ…。
「え、本当!?絶対行く~!」
「それじゃ、外で雫待たせてるから改めてまた明日!」
そう言って凪は店を出て行った。
「二人ともまた来ようね!」
もうやめて木葉、とっくに千里のライフはゼロよ…。
隣で今にもまた魂抜けそうな千里を不憫に思いながら、この日は解散した。
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