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1章-10
本日の放課後もまた懲りずにやってきた図書室へと潜りこみ、お気に入りの本でも探そうと本棚を探っているとしっかりと教師の先客がいた。またこれか。
「悠綺さん、こんにちは」
「こんにちは」
おかしい、この前まで会った時は岡田さんだったはずだ。またもや篠崎と同じような現象となっている……。
その上、私が下の名前まで発言したのは一番最初に彼と出会い、名前を聞かれた時が最後であった。
そこまで私の名前を記憶していたのは少し気持ち悪いと感じたが、その気持ちを上回る謎の高揚感が心にはあった。
「悠綺さん、この後放課後暇でしょ?」
「ご覧の通りだと思います。」
「じゃあ、今から海見に行こう」
何を言ったのかよく分からず私はぽかんと口を開けたまま、眉をひそめた。
そんな表情を見ている彼は薄気味の悪い口角の少し上がった笑顔をしたまま耳元にこの後16時にここでと囁き、ちいさな紙切れ渡してきた。
その紙には、近所の人気のない海辺が描かれていた。
こんなことが起きる非日常感に、私はまだまだ浮かれてしまって即座に向かう準備をしてしまうのはどうしようもないことなのだろうか。
そんな訳で私はなんとなく彼からの作戦に乗っかってしまい、いつも帰る方向とは違う方向に乗り込んだ。
彼はどうやら足がつかないようなのか、同じ時間帯の電車では見つけることがなかった。
これから向かう海は距離が近いとはいえ、少し学校からは離れていてあまり学校の子たちは寄り付かない場所だとなんとなく記憶してしている。
駅に着き、海辺までなんとなく案内をみながらたどり着くと指定された時間より少し早かったので、なんとなく海を眺めていたその時。
「ちゃんと来たな、偉いね」
いきなりの後ろからの声にはもちろん聞き覚えがあり、パッと振り向くとそこにいたのは先程図書室でみた先生であった。
「ちゃんときましたよ、先生。」
そう言って見つめると、彼は柔らかい笑顔を浮かべてこう言った。
「全く君は本当にあの人に似ているな」
「あの人?」
「なんでもないよ」
なんでもないわけないだろがいという気持ちにはなったが、どうやら少し訳ありであろう顔をしていて深く聞くにも聞けそうにない。
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