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1章-8
帰るまで一緒にいるという真意は何か。こいつも何を思っているのかさっぱり分からない。
私には何も分からないというのを脳内に巡らすばかりで、手に取った小説の内容なぞ一ミリも読み込めない。
「なあ、それ面白い?」
「……うん」
「嘘だ、全然読めてない」
「何でそんなことが、」
「わかるよ、だって目が文字にそってないし」
はて、こいつはどこを凝視しているのか。
「ねぇ、俺のせいで読めない?」
その言葉を発した顔は軽くにこやかで、自分にはキャパオーバーの台詞だ。
この人は完全に自分の魅力に気付いていて、それを全て振り切って私にぶつけてきている。
なんだかその人間さがあるようなないような対応が怖い、恐ろしいと思った。
「ごめん、もう帰るから」
私は立ち上がり、カバンをもちすぐさま図書室をでた。
気の抜けたばいばいの声を聴き逃したようにして出ていった。
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