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1章-1
高校2年生になりたての春のことだった。
「君、名前はなんていうの」
放課後の図書室で呆けた顔で外をみていたら、確か数学の先生である立花という人がいきなり声をかけてきたのだ。
「岡田、悠綺です……?」
そう答えると、そうかと返し、早く帰るようにと言いそのまま帰っていったのだった。
全く意図もわからず、唖然としている所にもう帰れという意の校内放送も流れてくる
出来ればもう少し学校に残っていたいなと思いながら、荷物をまとめ学校を後にした。
そして、駅のホームにて携帯をみながら電車を待っていると横に先程の彼がいたのだ。
私はそのことに驚き、思わず声をかけてしまった。
「あの、なんでさっき私に名前を聞いたんです か……立花先生……」
どうやらあちらも無意識的に私の隣にいたようで私が急に声をかけたことに少しびっくりしたような表情をしている
「昔の知り合いに似ていてつい。
それにしても、僕のことを知っているんだな
授業受けたことないのに。」
「知ってるに決まってるじゃないですか。」
先生はみんなの人気ものですもの。というのはなんとなく口にはすることができなかった。
彼はかなり容姿に長けていて、そして、先生という部類の中では若く、女生徒から人気だったというのは、高校1年のときから分かっていたことだった。
そんな彼とのいきなりの急接近に伴い、今まで平々凡々であった私はかなりの高揚感を覚えていた。
「そうか。
あと1つ気になるんだけど、なんであんなに放課後の図書室に残っていたんだ?」
確かにこの学校は図書室はあまり使われず、人が最後の方まで残っているというのはあまりなく珍しいことではあった。
「それはなんとなく察して下さいよ、家に居たくないとかまだ用事があるとか。」
「……」
黙ってしまったので、多分察して頂けたようだ。
そうして、このまま電車へと乗り込みその後は特に会話もなく私は家路に着いたのだった。
帰りたくもない家に帰り、部屋にて私は今日の後半に起こった出来事について考えていた
あまりにも自分の身に余ることだったなぁと思えて、学校の校内中にいる彼のファンたちに対して申し訳なくなってくる
そうやって浮かれながら色々考えている中父の怒号が聞こえるので、一気に現実へと引き戻されたのだった
あともう少しで、この部屋の襖もガラッと開くのだ、父に対しての無駄な抵抗ももう飽きてしまった。
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