ボーイミーツガールっぽいなにか

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ボーイミーツガールっぽいなにか

「うん、眩しい」僕は外の景色に興奮していた。太陽は僕に当たっている所の温度を上昇させ、桜の花はとっくに落ちて青々とした葉っぱの茂った木々はランダムな微風で揺れている。…でも、それだけならシミュレータでも同じだ。しかし、幹線道路の様々な車の行き交う音、そこそこの広さの公園を散歩している老夫婦の会話する声、僕を追い越していく自転車の錆びてキーキー言ってる音と巻き起こす風が頬を掠めていく、向こうにいる雀の”チュンチュン”鳴いている鳴き声…あっ、今向こうで電車通った!その全てが僕にとって新鮮なものだ。何せ外へ出た事なんてそんなにない、更に一人でなんていうと完全に初めてなのだから…。でも、これからは毎日外を出歩く事になる。何故なら… 僕は足を止める。そこには同じ服を着た人達の集団が吸い込まれていく建物があった。 ”学校” 学び舎とも言われる場所だ。そして僕も彼らと同じ服…制服を着ている。つまり、今日から事になったのだ。 大体170センチ位の身長の僕とそんなに変わらない高さの門を入って行く。色々学ぶ事が出来る期待と、ちゃんとやっていけるかという不安を胸に抱いて。 僕、小平 イツキがこの関東平野の真ん中よりちょっと西側にある、それ程偏差値の必要ない都立の高等学校に入ったのはゴールデンウイーク直前のタイミングだった。僕の保護者にあたる人物は本当は入学式に間に合わせたかったらしいけど手続きとか前例が無いらしくて大幅に遅れた為ひと月近く後の入学となった。 そんな時期にやって来れば皆から注目されるのは仕方がない。しかし、僕も初めての学校という事で緊張していたし… とはいえ初日の授業は問題無く過ぎていった。まぁ、先生の話を聞いて黒板の文字を書き写していけばいいだけだし特別何かおかしな事は無かった。…ある一点を除いて。 それは、僕が入ってきた時から じーっと僕を見つめてくる女子だった。席は僕の真隣だから先生の方を向いているのを僕が勘違いしている訳がない。 僕の見た目は特に変わったものは無いはずだ。身長も大体平均くらいだし、髪の毛もギリギリ掴める位の長すぎも短すぎもしてないし、顔も少し色白で整っているとは自覚しているけど…だからって見つめ方が尋常ではない。 あまりに見つめられて僕は誰にも言えない秘密を探られているみたいで落ち着かなかった。それは授業中でも、弁当を食べている時も見てくるのだ。僕はたまらずに近寄ると彼女は視線を外してどこかへ去っていく。自分の席に戻ると また僕の方を見てくる。…僕のことを知ってる人なんてこの世に居ないはずなのに… まぁ、その日はそれくらいで済んだのだけど問題は次の日。明日から連休だということで皆浮き足立っている…のだけども僕はまだクラスの雰囲気に馴染めてない(当たり前だよね)から”一週間くらい休みです”と言われても正直喜べる訳がない。 一週間。2日しか一緒にいなかったのに一週間。また振り出しとは言わないけど連休明け、やり直し感があるんですが…もうちょっとどうにかならかったのかと思う。こんな半端だったらいっそ休み終わってからスタートで良かったのに…うーん。 それでも、本日の授業は無事全部終了。 「あ、小平くん。ホームルーム終わったら職員室に来てくれる?」とりあえず帰れるかと思ったら担任教師から指名で呼び出しされた。 職員室。一昨日来たけど またすぐに来ることになるとは。まぁ、反抗したらどうなるか興味はあるけど、どうシミュレーションしてみても面倒な未来しか見えないので、言われた通りに向かう。 「簡単に ひと月分だけど授業で教わった部分を先生方に協力してもらって纏めたから目を通して休み明けの試験に備えておいてね」 …何という人の良さだろう。自分のような者の為に先生も忙しい中、こんなのを作ってくれるなんて。 目の前の栗色の髪を腰の辺りまで伸ばした女性は幸の薄そうな雰囲気を撒き散らし、少しやつれた表情の先生、金井 美穂子(29、独身、婚活中)は続ける 「あと…まぁ入ってすぐだからまだ何とも言えないかもしれないけど、クラスに馴染めそう?」少し聞きにくそうに聞く。 「あ、まぁなんとかいけると思います」 「そう、良かった」安堵する先生の表情を見ていたら、一つ気になった事を聞いて見たくなる。 「っ、そういえば…」 「えっ何?」一気に不安な顔に変わる先生。 「あっ、いえ別に問題があるっていう訳じゃないんですけど。なんか僕を見てくる子がいるんですけど」 それを聞いた 付き合った期間で最長が一年二ヶ月で別れの言葉が”なんか思ってたのと違う”という曖昧さで本人も何を変えれば良かったのか分からないモヤモヤに苛まれている金井先生は「はぁ…」と溜め息をついた。 「あの子…豊田さんよね、本当言うこと聞かなくて困っているのよ。勝手に授業中フラフラ出かけたり、寝てたり。一体何考えているのか全然検討もつかないし…それなのに他の先生に見つかって”生徒の管理も出来ないのか”って言われるのは私だし…」 だんだん愚痴っぽくなってきたこの最近一人飲みでビール500ml缶六本セットを1日で飲んでしまった酒豪こと金井先生。因みに先程から出てくる先生情報はクラスメイトが話しているのが聞こえてきただけでここまで知るつもりは全く無かったのだけども…あと、最後のやつはホームルーム中に先生自身が自分の行いを生徒達に相談してきたので、もうクラスの連中も呆れていた訳だけど。うん、「ストレスがすごいからしょうがないよね」って自己弁護してましたけど…飲み過ぎですし。 「それじゃあ、もう帰ります。連休明けにまたよろしくお願いします」「あ、ちょ…」 そう言って僕は逃げるように玄関へ… 「あ!」 優先順位が早く帰ることだったから忘れてた。連休の課題が出ていたのを職員室に持って行ったりするのが煩わしかったから教室に置きっぱなしにしていた。持って帰らないと課題が出来ない。仕方なく教室に戻って行く。 「ん?」誰か居る。もう放課後になって結構たった。それなのにまだ帰っていない人がいるなんて…ん?待てよ、あの窓際で外を見ているは…女子の中では背は高くて、黒髪を肩のあたりまで伸ばした女の子って… よく見るとさっきも先生に話した、いつも僕を見つめてくる女子だ。 「豊田さん?」僕は教室に入ると同時にそう声を掛けた。 すると窓の外を見ていた彼女はこっちを向き、つり目がちな瞳で僕の顔を見るといきなり跳躍して僕の目の前に降り立った。…いや、10メートル位離れていた筈なのに、一瞬で手を伸ばせば触れられる距離に縮まった。 「うわっ!」僕は思わず仰け反り、だけど何とか踏ん張って倒れることは避けた。そして、彼女は割とモデルみたいにスラッとした体型なのだという事を今知った。 「へへへ、荷物あるから戻って来ると思ったんで待ってたんだ」 そう言って目の前に迫った彼女の顔が、僕の見える範囲に彼女の色の薄い瞳が大半を占めて、きめ細かな肌の角質まで見える距離。そして更に段々と近づいていって、彼女の目しか見えな… 「むぅ……~~~」 僕の口と彼女の口が合わさる。 僕は突然の出来事に訳が分からず、どう動けばいいのか処理が追い付かなくなりオーバーフローでフリーズしてしまう。 しばらくの接吻ののち、口を離した彼女はこう言った。 「ヤッパリ人間じゃないと思ってたけど、アナタ機械なのね」 ズバリ言い当てた…何故?僕は見た目とか人間にかなり似せてあるのに…。 「フフフ、機械でも驚くんだ。面白いね。前々から何か人間とは違う匂いするなーって思ってたんだよね。それで味見したら何か金属っぽかった」 「いや…匂いとか分からない筈なのに…」そういう風に造られたって聞いてるし。人間の輪の中に溶け込めるようにほとんど分からなくしてあるらしいし。 「そうだね。アナタの秘密だけ知っててもアレだから、アタシの秘密も教えてあげる」 そう言って豊田さんはおもむろに制服のスカートの後ろの方をずり下ろし始めた。 「ちょ、ちょっと豊田さん!」 僕は性的興奮などしないがこの場面が不適切な事は情報として知っている。無闇に女の子の肌を見せるのはいけない。僕は止めようとするが豊田さんの露わになった健康的な腰とその先が出そうになった時、 「っ!!」 突如、二本の白い紐っぽいものが出てきた。それは毛のような物で覆われていて更に自在に動いている。 「????」 僕のコンピューターがエラーを吐き出して何度も再試行するが、今のこの状況を説明出来るものはフィクションの世界でしか存在しない。現実には有り得ないものだ。…あ、いや僕もそうなんだけど… 「フフ、驚いた?アタシは猫又ってやつなの。人間に化けれるようになった猫」 そう言って僕に顔を向けた彼女は頭の左右に尻尾と同じ白くて尖った耳が付いていたのだった。
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