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『詳しい検査は明日行います。』
主治医の先生がそう告げて、ベッドのまわりは私達だけになった。
「良かった………良かったぁ……ほんとに良かったぁ」
『おとうさん、泣きすぎ。恥ずかしいよ。』
「だって……もし助からなかったら…環奈ひとりになっちゃうじゃないか……そんなのダメだ!」
『……え?……な、なにいってんの!』
「いいかい?環奈。おとうさんは幽霊なんだ。
ずっとそばには居てやれない。」
『なんでそんな事言うの!?
ほんっっと無責任だよね!!』
「このアザは、残り時間を教えてくれてるんだ。
自分でもわかる。もうすぐお別れだってことも。」
『だって!
おとうさんがいないと……お母さんがッ…』
『環奈………もういいのよ。』
黙っていたお母さんの小さい声が聞こえる。
『お母さん、もう自殺なんて馬鹿な真似はしない。
母親として、環奈を守って強く生きなきゃって
ようやく気付けたの。
環奈をひとりぼっちになんかしちゃダメだって。
きっと裕一さんも同じ事を考えてると思うの。
違う?』
姿なんか見えなくても
声が聞こえなくても
おとうさんとお母さんは
ずっと繋がってた。
『……ちがわ……ない……』
『ふふ。環奈の泣き顔、裕一さんにそっくり。』
おとうさんそっくり。
今はその言葉がいちばん幸せ。
『お父さんを見送ってあげよう?』
『………うん。』
ずっと
おとうさんを引き留めてたのは
わたしだったんだ。
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