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『ただいま~』
返事は無いけど、リビングの方から人の声がする。
『ここのお店、美味しかったよね。』
「杏奈はパンが美味しいって欲張って
結局メインは食べきれなくて半分僕にくれたよね。」
一瞬ドキッとした。
会話……出来てる………?
『パンが美味しかった気がするわ。
メインはほとんどあなたに食べてもらったから
正直覚えてないのよね。
デザートも食べられなかったし。』
「いやいや。デザートは食べてたよ?
写真取る前に食べちゃったから写真ないけど。」
『食べたかったわぁ。』
「食べたってば。」
なーんだ。
会話成立してないや。
『ただいま。』
『あら、お帰り。』
「お帰り、環奈。」
『アルバム見てたの?』
『そう。環奈が産まれる前の写真。
お母さん、綺麗でしょ?』
『ふーん。』
開かれたページには、お店の人に撮ってもらったのか、テーブルを囲んで微笑む若かりし頃の二人が写ってる。
お母さんには、おとうさんの姿は見えないし
声も聞こえない。
おとうさんを認識出来るのはわたしだけ。
なんでそうなのかは分からないけど…
『デザート、お母さん食べたらしいよ。』
「そうそう!デザートは別腹~♪って。」
『あら?そうだった?やだわぁ。忘れちゃった!』
お母さんが笑った。
別に会話が成立しなくても、わたしが通訳すればいいし
共有する思い出があれば、それだけでいいじゃん。
別に、今のままでも……
『また………食べたいなぁ……』
お母さんがポツリと呟いた。
『…………………』
「…………………」
思い出は残るけど
これから増やすことはできないのだ。
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