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第4話
「そうそう、瞬くん目線こっちににお願いね!あ、そっちじゃなくて、ちょうど斜め上、そうそっち!」
カメラマンの指示に瞬時に対応して撮影は進んでいく。
コロコロと表情を変えながら、要求された動きや表現をこなしていく姿に、かつての自分の面影を思い出す。
瞬の表情の作り方はどこか俺と似てるんだよな……
そしてそんなことを思いながらスタジオの端でぼんやり眺めていると、一瞬視線が重なる。
鋭く流された目線の先で捕えられた俺は、ふと今朝バスルームで瞬から言われた一言を思い出していた。
『俺、アイツじゃなくてマジで名波さんに乗り換えようかな 』
可愛い顔して言うことが生意気なんだよ、全く……
シャッター音と一緒に流れてくる聴いたことない耳障りなBGMに乗っかるように、直ぐにカメラに戻された鋭い視線に俺は少しの苛立ちを覚え、そのままスタジオを出た。
*
クリアガラスで仕切られた喫煙所のソファーに腰掛けながらタバコに火を付けると、ネクタイを少し緩めながらため息と一緒に天井に向かって煙を吐き出す。
見上げた先のライトが眩しくて目を瞑ると同時にドアが開く音がして、次に耳から聞こえてきた予想外な声に一瞬身体が強ばった。
「あれ?タバコ吸うようになったの?」
その声がする方へと顔を傾け目をゆっくり開けると、
「よう、久しぶり」
「……小野寺さん」
……モデル時代に何回か仕事で一緒になったカメラマンの小野寺が。
小野寺は俺が現役時代から手が早いと有名で、事務所からも気を付けるようにと散々言われていたから俺も仕事以外では近寄らなかったし、結局モデルを辞めてからは会うこともなく、今もカメラマンをしてるのかすら知らなかった。
「航平、相変わらずイケメンだなぁ」
「……何やってるんですか」
「何って仕事だよ、見てわかんない?」
そう言いながら俺にカメラを向けるとおもむろにシャッターを切ってくる。
「ちょっと、やめてください。俺はもう撮られる立場じゃないんですから」
「いいじゃん、久しぶりに撮らせてよ。イケメンがスーツで無造作に緩めたネクタイで咥えタバコとか、アンニュイしエロいしかないだろ。なんでモデル辞めたんだよ、勿体ない」
からかい方も相変わらずで、出来ることならもう二度と会いたくなかった。
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