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第9話
小野寺がいなくなり、部屋が静まり返ったところで俺はゆっくりと口を開いた。
「なんで……ここが分かったんだよ」
「それより先に、あの人に何かされた?」
「いや、大したことは。ちょっと触られただけだから大丈夫だ」
「……よかった」
「で、さっきの続き」
「……この前、喫煙所でさっきの小野寺って人と名波さんの会話を聞いちゃって俺嫉妬したんだよ。それで禁止されてたのに抱きついちゃって、その時に微かにシャッター音が聞こえた気がして、それから念の為あの人の事を調べてたらこう言うことになったわけ」
「……なるほどな。でも今回は大事にならなかったけど、もう二度とこんな真似するなよ……危ないから」
「もうしない、俺がこれからは名波さん守るから」
そう言う勝ち誇ったような姿がいつも以上に大人びていて調子が狂う。
「そ、そうだ……あと一つ。どういうことか説明しろ。俺のこといつから憧れの対象にしてたんだよ、全然知らなかったし」
「あぁ、あれね。ほんとはさ、あのCM撮影終わったら言うつもりだった」
そう言い、俺に小さな箱を渡すと開けるように促された。
そして中に入っていたのは……
「……指輪?」
「今日たまたま受け取ってきたとこだった。これさ、今年のテーマの指輪なんだよ」
「テーマって……秘密の?」
「そう。実はさ、先にお願いして作ってもらってたんだ、撮影終わったらすぐ渡せるように」
「誰に」
「だから名波さんに」
どうして俺が指輪を貰うのか全く理解出来ないでいると、その『秘密』について瞬は指輪を手に取るとゆっくりと話し始めた。
「これ、アクロスティックリングって言って、宝石名の頭文字で暗喩的にメッセージを伝える、二人だけにしか分からない秘密の暗号のような指輪のことなんだ。ここ、指輪の内側見て?」
そう言われシルバーのシンプルなリングの内側を見るとひと粒ひと粒違う色の宝石が埋め込まれているのが見える。
「何個も埋め込まれてるのが見えるな」
「ここに埋め込まれているのは、ルビー・エメラルド・ガーネット・アメジスト・ルビー・ダイヤモンド。その頭文字を順に取ると『REGARD』敬愛や好意といった意味があるんだ」
「敬愛と好意……」
「10年前に名波さんが同じようにここのCMに出演した時にエキストラの子におまじないしたって言ってたよね?それ、俺だったんだよ」
「は?!」
あの時の子が瞬だったなんて……
「俺が緊張してるのに気付いて、名波さんは俺の頬を軽く触りながらおまじないしてくれた」
そう言って、あの頃俺がしてやったおまじないと同じように俺の頬に触れると軽くつねられた。
「痛っ!」
「俺だって痛かったよ、でもあれで緊張が解けて自然に笑うことが出来た。あの時近くで名波さんの撮影風景を見た時に俺もあんな風になりたいって思ったんだ」
「俺はそんな大したモデルじゃないぞ」
「俺にとっては凄い人なんだよ」
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