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「あの……東洋製薬の記念祝賀会のことなんですけど、あの後、大丈夫でしたか?」
「あれ、周防から聞いてないの? 入中が倒れたことも、救急車で運ばれたことも、あっちの上層部にはバレてないよ。周防が上手くやってくれたし、おまえもぎりぎりまで踊り切ったからな。まあ、とにかく無事でよかったよ。もう、顔色もよさそうだな」
「はい」
「そうだ、入中は次のプロジェクトにアサインされてるの?」
「いえ、まだです。しばらくアベってる予定ですが」
「いいねぇ。有給でも取るの?」
「まだ考えてはいません」
「そうなんだ。また一緒に仕事できるといいな」
「はい。お世話になりました」
陽向が頭を下げると、向井はじゃあと手を上げてフロアの奥へ消えた。
PMである向井と周防はそれぞれ別のプロジェクトで東洋製薬に関わっていたが、それももう終わってしまった。チームは解散で、次のプロジェクトが決まっていない陽向は手の空いたアソシエイトになった。アサインがない状態のことを業界ではアベると言う。
「……あ」
視界に周防の姿が入った。
今日も一糸乱れぬスリーピースの高価なスーツでバキバキに決め、窓側の一番いい席に腰を下ろしている。コーヒーだろうか。パソコンを眺めながら優雅にPPコップを傾けていた。何気なく見ているとふと目が合った。
――うっ……気まずい。
石にされる前に目を逸らす。なるべく周防から遠い席を探した。
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