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根は優しい男なのかもしれないが、周防は無駄にスペックを余らせた超絶エリートの堅物なのだ。同じコンサルタントであっても同様の共通言語を持っていない。
今も高そうなスーツを身に纏い、サイドベンツの入ったジャケットをヒラヒラさせながら大手町に向かって歩いている。トム・フォードだろうか。カタギが買えるスーツじゃない。後ろ姿はヤクザの幹部か海外サッカークラブチームの監督だ。
「どうかしたのか?」
「……いえ」
陽向は無言のまま周防についていった。
周防が案内してくれたのは商業施設が入ったビルの十八階で、ガラスの窓から東京駅が一望できる店だった。脚の高い椅子に並んで座り、ふと前を見ると、大きな窓に二人の顔と東京駅が反射していた。煉瓦の駅舎の上に広がった空は青く澄んでいる。夏だと思った。
「通常のランチでいいか?」
「あ、はい」
周防の勧めでそれぞれ違うランチセットを頼んだ。
景色を眺めながらぼんやりしていると不意に横から腰をつかまれた。
「えっ!」
驚きのあまり変な声が出る。周防は気にすることなく陽向の腰を椅子の中央に移動させた。
「脚がぶらぶらしていて危ない。ちゃんと真ん中に座れ」
――って、おまえは俺のお母さんかよ。
ついでのように曲がったスーツの裾も直してくれる。
変な世話の焼かれ方に動悸がした。やっぱりこの男は苦手だ。表情が読めないし、意図が分からない。
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