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「これから頑張って鍛えます」
「入中はそのままでいい。可愛いからな」
「甘やかさないで下さい」
「駄目だ。甘やかすのが俺の役目だ」
「なんなんですか……もう」
くだらないやり取りをしながらプールへ向かう。
中に入ると、整備された二十五メートルプールとエクササイズが行えるような流れるプール、大きさの違うジャグジーが二つあった。奥にはサウナとミストルームもある。
「さて、ピヨたんを流そうか」
「え?」
周防が満を持しての微笑みを口元に湛えている。
「この日を夢見ていた……」
「へ?」
「可愛いピヨたんを浮き輪に乗せて流す。これがホントのラバーダック、浮き浮きアヒルちゃんだ。ようやくその夢が叶う時が来た」
「え? ちょっとま――」
周防は天下を取ったような顔をしている。レンタルの棚から大きな浮き輪を借りると、プールに投げ入れた。そこへ楽々と陽向を乗せる。陽向がゆっくりと流れ始めた。周防はそれに付き添うように浮き輪の端につかまってついてくる。
「ああ、俺のピヨたんがそよそよと流れている。死ぬほど可愛い……」
「も、もう……やめて下さい」
周防は流れピヨたんだと喜んでいる。
恥ずかしくてたまらなかったが、周防の無邪気な笑顔に楽しいならいいかと、陽向は次第に受け入れ始めた。
周防に半ば抱かれる形でふわふわとプールの真ん中を流れる。水の冷たさや飛沫の刺激が心地よく、一周する頃には自然と笑顔になっていた。
周防がバタ足で浮き輪を押してくれる。推進力がついてさらに前に進む。陽向が歓声を上げると、周防がまた押してくれた。浮き輪特有の浮遊感が凄く気持ちいい。
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