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「あの、恥ずかしいんですけど、子どもの頃、劇団に所属していた経験があって、歌とダンスは得意なんです。今はもう踊ったりはしませんけど」
「劇団……そうなのか、なるほどな。納得した。あのピヨたん音頭にはキレがあった。リズム感も抜群で、お尻フリフリも健気で最高に可愛……いや、とにかく素晴らしいステージだった」
「はあ……」
「皆、喜んでいたぞ。クライアントのために必死で頑張る姿にも心を打たれた。どの客層にもウケる、独自の洞察を軸にアウトプットされた、バリューの高いピヨたんダンスだった」
ちょっと意味が分からない。褒められているのだろうか?
低い声と冷静な表情。それに石の目。いや、違う。石にされそうな目だ。周防は話していても顔の筋肉がほとんど動かない。動くのは瞬きだけだ。
マジで生きてんのかと思ったが、クライアントの信頼が厚いのはこの冷静な顔のおかげだろう。威圧的すぎないが、理由もなく逆らえない雰囲気があり、自ら従いたくなるような信頼性とカリスマ性があった。
「大学卒業後にそのままEKに入社したのか?」
「そうです。学卒入社でアソシエイトから始めて、今年で三年目です」
コンサル業界では新人のことをアソシエイトやアナリストと呼ぶ。能力によって呼び名が変わるシビアな階級社会で、新人がコンサルタントと呼ばれるようになるまでには数年掛かるのだ。
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