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「いただきます」
まずはしっかりとしたバゲットを食べる。表面はパリパリ、中はしっとりで甘味があって美味い。ジャムやオリーブオイル、レバーのパテを塗っても美味しかった。パンは大好きだ。
無言でむしゃむしゃ食べていると、周防が半分に切った鴨を陽向の皿に置いてきた。
「え、あの、これ……周防さんの分がなくなっちゃいますよ?」
「構わない。もっと食え」
「ですが――」
「子どもみたいな顔で食うんだな。面白いぞ」
「はあ……」
陽向は仕事が激務な分だけ、日常の中に現れる些細な幸せを積極的に見つけようと思うタイプの人間だった。朝、部屋を出た時の風が気持ちよかったとか、何気なく入ったラーメン屋が激ウマだったとか、街を歩いていたら懐かしい匂いがしたとか、そんななんでもないことにもきちんと感動するタイプだ。それが面白いのだろうか?
確かにこの店のフランスパンは美味かった。
「じゃあ、これを」
陽向がチキンを半分に切って周防の皿に載せると、周防は意外な顔をした。
「凄く美味かったんで半分こで」
「ああ」
「周防さんもたくさん食べて下さいね」
周防はナイフとフォークを綺麗に使ってチキンを食べた。その姿を眺めながら陽向が微笑むと、周防の耳の付け根がほんの少しだけ赤くなった気がした。お返しの半分こが嬉しかったのだろうか?
けれど、表情や声のトーンに変化はなく、やっぱり気のせいだと思った。
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