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「入中、今日から出向か?」
「あ、そうです。周防さんもですよね?」
「ちょっとこっちへ」
朝のミーティングを終えてフロアをウロウロしていると周防から声を掛けられた。部屋の端へ連れて行かれる。
「緊張してるのか?」
尋ねられて驚いた。自分ではそんなつもりはなかった。何か不安にさせるようなことがあったのだろうか。
「あの、特には――」
「そうか?」
「はい」
なんだろう。じっと見つめられる。長い睫毛が綺麗だなと思った。
「確かに常駐型のプロジェクトは久しぶりなんで、いつも以上に気合いは入ってますけど、アソシエイトとして精一杯頑張ります。必ずバリューを出してみせます。周防さんもあちらのメンバーなんですよね?」
「そうだ」
今回、陽向がアサインされたプロジェクトは常駐型と呼ばれる、クライアント先の社員になって調査を開始するものだ。社員証はもちろん社内でのポジションも確保されている。実際にその企業に身を置き、社員にインタビューを重ねながらデータを集め、問題解決方法を導いていく。
「入中……」
「え?」
急に頭の上に大きな手を置かれて驚いた。体が固まる。
これは俗に言う、いい子いい子なのだろうか? 意味もなく頭をよしよしと撫でられる。じっと見つめられながらのそれは、母猫が仔猫にするグルーミングのように繊細で優しかった。
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