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「まあ、上野の公園ならすぐですもんね」
「いや、今日は井の頭の方に行こう」
「え?」
ボートといえば不忍池かと思ったが、どうやら周防は井の頭公園に行きたいらしい。
「上野じゃ駄目なんですか?」
「カップルで不忍池のボートに乗ると別れるという噂があるからな」
「それって井の頭公園のボートもですよね?」
「それが、違うんだ。井の頭公園のスワンボートは全艇メスだが、一艇だけオスのスワンボートがいるんだ。キリっとした眉毛があるからすぐに分かる。それに乗ると、別れるどころか未来永劫、恋人同士でいられるそうだ」
「未来永劫……凄いな。知らなかった」
「いつか恋人ができたら乗りたいと思っていたんだ。ああ、楽しみだな」
そう言うと周防はわずかに目を細めた。
眉毛のあるオスのスワンボートか。どんな見た目なんだろう。想像できない。けれど、乗ってみたいと思った。
周防とずっと一緒にいられるのは嬉しい。今日も明日も二人でいたい。
――別れたくない。
(別れたくない)
――あ……。
心の声が揃った。
二人とも気持ちは同じなんだと思い、胸がいっぱいになる。オスのスワンボートに乗るのがさらに楽しみになった。
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