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ボーッとしているとただ寝癖を直されたのだと分かった。ついでのようにネクタイの歪みも直される。
「不動産会社の営業マンなんだから、もう少し爽やかな感じを出せ」
「はい……」
「茶色のスーツにタータンチェックの青のネクタイって、センスがイギリスのコメディアンみたいだな……」
「駄目ですか?」
凄く可愛いと思ったのにショックだ。
「そうだ、俺のネクタイを貸してやる」
周防は自分のロッカーから青のレジメンタルタイを出してきた。抵抗する間もなく、ネクタイを取りかえられる。しゅるしゅると心地よい音を聞きながら、これはなんだと思った。
もの凄く世話を焼かれている。
お母さんみが強い。
けれど、周防の表情はクールな鉄仮面のままだ。
やっぱり、この男のことが分からない。何か意図があって陽向の世話を焼いているのだろうか。
「これでいい。若手の爽やかな営業マンに見える」
「あ、ありがとうございます」
陽向が礼を言うと、周防は微かに頷いた。
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