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陽向は菅とその上司である越水の営業に同行した。貸しビル業は基本的にBtoB、つまり対法人の仕事で、個人相手のマンションや住宅の賃貸とは仕事の種類が違う。闇雲に借りてもらえばいいわけではなく、できることなら自社の資産価値を下げない優良企業にリースしてもらえるのが一番ありがたい。
ウィンウィンとまではいかなくても「あそこのビルをオフィスとして借りれれば」「あの企業に入ってもらえれば」というお互いの希望が一致してこそのビジネスでもある。
ハイランドは現在、ごく一般的な反響営業以外に、オフィスや店舗のテナントを求めている企業の情報を集め、その会社に直接出向いて売り込みをする新規営業の形を取っている。陽向は菅に同行し、営業のやり方や相手企業の感触を確かめた。同時に都内だけでも二十件以上ある複合オフィスビルを実際に自分の足で歩いてチェックした。合わせてビル管理を行っている子会社の様子も見学し、掃除や維持の状態にも注目した。
資料を読み込む、あるいはデータを分析することは確かに大事なことだ。数字を読むことで見えてくる事実もたくさんある。けれど、陽向はそれにプラスして自分の目で見ることを重要視していた。
気づきは重要だ。
たとえばビルの周囲に商業施設がある、競合他社があるといったことだけではなく、街のざわめきが心地よかったり、街路樹の緑が綺麗だったり、薄っすらと潮の匂いを感じたり、美味しい定食屋があったり、データには現れない事実の発見が問題解決の糸口になることもある。
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