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「俺が今まで周防さんのプロジェクトにアサインしてもらえなかったのは、アソシエイトとして認められていないからだと思っていました。俺は周防さんのように外資の戦略系ファームで働いた経験はありませんし、大学も普通の私大ですし、仕事は全力で頑張っていますが……存在が遠いなと。ずっと憧れてはいましたけど、階級も違いますし、正直、怖かったです。今も怖いですけど、こうやって優しくされると混乱してしまいます」
「俺は別に優しくないぞ。プロジェクトが進めば分かる。覚悟はしておけ」
「……はい」
確かに噂では部下のアソシエイトが一生懸命作成した資料を無言でシュレッダーに掛けたと聞いたことがある。アソシエイトはプロジェクトに入ると、百枚を超えるボリュームの資料を連日徹夜で作成する。それを出来が悪いからといってシュレッダーに掛けられたらたまったものじゃない。せめて、溶解用の段ボールに入れるという温情が欲しい。
陽向がビクビクしていると周防が靴下を履かせてくれた。そのまま革靴も履かされる。一から十まで手際がよかった。
「もう痛くないか?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「ピ……入中とこれまで一緒に仕事をしなかったのは、ただタイミングが合わなかっただけだ。そこに特別な意図はない。仕事で困ったことがあればいつでも助けるつもりでいる。やる気のあるアソシエイトのためなら労力を厭わない。人を育てるのもPMの仕事だからな」
「あ、ありがとうございます」
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