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周防と同じプロジェクトになったことはないが、それは自分が避けられているからだと陽向は思っていた。陽向は対人スキルのみでEKコンサルティングに入社した言わば、ゆるふわ系コンサルタントだ。生え抜きの戦略系ファームからヘッドハンティングされた周防とは訳が違う。
――ああ、もう駄目だ。涅槃が見える……。
ピヨたんの大きなお尻で最後のひと振りをして、ふらつく体のまま、陽向は舞台袖に倒れ込んだ。
目が回る。暑いのに寒い。体がぶるぶる震えている。
どうしたのだろう。
全身の筋肉が硬直している気がした。
「……っ! 入中!」
男の呼ぶ声がする。周防が叫んだ気がした。
いや、これは確実に気のせいだろう。
あの冷静で冷徹な周防が動揺するはずがない。ましてやアソシエイト――ヒラのコンサルタントである自分のことを心配して、プロマネの周防が大声で叫んだりはしない。無駄なカロリーは一切消費しないのがあの男の特徴なのだ。
――ああ、目が回る……。
一面の花畑が見えた。色鮮やかで凄く綺麗だ。
ポピーの群生かなと思っていると徐々に視界が暗くなった。何も見えなくなる。
「……中っ! 入中、大丈夫か? おい、今すぐ救急車を呼べ! ボーッとするな。熱中症は死に至る病だぞ。軽く見るんじゃない! くそっ! だから……だ……しろ――」
バタバタと人が走る音が聞こえる。本体を揺らされてアヒルの頭を取られた気がしたが、体は重いままだった。
「ピヨたん……ああ、俺の可愛い……ピヨたんが……」
男の呻く声が聞こえた。
――え? 今、なんて言った?
俺のピヨたん?
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