【4】その恋はズレ漫才

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 なんだこれ。  一瞬、息が止まる。  ピヨたんのテーマソングだろうか?  ちょっと最後まで読めなかった。  CM等で使うキャッチコピーだとしたらどれも0点のフレーズだ。愛とセンスと言葉がとっ散らかっていて、背筋がぞわぞわする。全く理解ができない。東洋製薬のイメージ戦略のために考えたのかもしれないが、周防らしい尖った感性と怜悧さが一つもなかった。周防が書いたというよりは、インスタに虹や空の写真ばかりを上げるポエミーな人種が酔っ払って夜中の三時に左手で書いたような内容だ。  特に最後の〝MY LOVE〟をわざわざ繰り返すところが最悪だ。絶望的に気持ちが悪い。  どうしたのだろう。  何か病的なものに侵されたのだろうか。  とりあえず見なかったことにしようとメモ書きをノートに戻した。ノートには手書きの文字でびっしりと経営戦略に関することが書かれていた。草案なのに綺麗で理路整然としていて感動する。  なるほどなと思った。  これも周防のアプローチなのかもしれない。  色々な立場から物事を見ることも必要なのだろう。  たとえば十代になってみて、あるいはアーティストになってみて、ピヨたんを愛でてみたのかもしれない。  これも立派な仮説――イシューだ。  あっという間に絶望が消え、代わりに尊敬が込み上げた。  ――この人はやっぱり凄い。本当に凄い。  陽向は周防のように努力を怠らず、あらゆる可能性を視野に入れて仕事に取り組もうと心に決めた。  やるぞやるぞ。俺は必ずやってみせる――。  硬い決意の中には、自分のことを認めてほしいという甘い想いが含まれていたが、陽向はその気持ちの正体にまだ気づいていなかった。
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