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【2】いきなり、アサインされました!
陽向は小さい頃からおばあちゃん子だった。
陽向の祖母は長らく足を患っており、そのせいで家にいることが多かった。そんな祖母のために陽向は祖母のいる和室で色々なことをした。
――ばあちゃん、今日はここが海だよ。分かる?
和室いっぱいにポリプロピレンでできた青のビニールテープを張った。部屋の端から端まで、柱に巻きつけたり転がしたりしながら幾重にもテープを重ねて遊んだ。残りの紐でポンポンを作って股間を隠すと祖母は笑った。
ピンと張った紐の間を二人で豪快に泳いだ。
縁側からそよそよと気持ちのよい風が吹いて、和室の中が本物の海のようになる。
――ひなちゃん、これ波の音みたいやね。
――そうだよ。本物の海だよ、分かる?
――ああ、楽しいね、ひなちゃん。
陽向が紐を上下に揺らすと大波ができた。その波の間で祖母の笑顔が揺れていた。
陽向はそんなふうに、祖母の六畳間を雪のかまくらやプラネタリウムにした。祖母は陽向が何をしても楽しいと心の底から喜んでくれた。陽向は祖母とともに過ごすことで、狭い和室であっても一つのアイデアでガラリと世界を変えられることを知った。
もっと笑顔にしたい。
祖母を笑顔にしたかった。
――そうか、笑顔は作れるんだ。
知識とアイデアで世界は変えられる。誰かを幸せにできる。その喜びは陽向を少しずつ大人にしていった。
高校生になる頃には学校のバザーで、どんな模擬店をやれば人気が出て、どのくらい儲かるのか、そのアイデア自体を売るプレの模擬店を出して先生や同級生から驚かれた。これは出資がゼロで実際に儲かった。
そういう意味で、陽向は実にコンサルタント向きの性格と言えた。明るく素直でストレスに強く、人間力と行動力がある。
とはいえ、大手の総合系コンサルティング会社、EKコンサルティングの日本支社に入社できたのは奇跡でもあったのだが――。
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