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週明けの月曜日、オフィスに向かうと同期のアソシエイトに声を掛けられた。エントランスに設置されているカードリーダーにIDカードをかざした後、二人並んで専用のエレベーターに乗る。
「おまえ、もう大丈夫なのか?」
「ああ、点滴したら治った」
「にしても、災難だったな。いくらクライアントの頼みとはいえ、着ぐるみに入って踊らされるなんてな。何が少数精鋭のプロフェッショナル集団だよ。これじゃ、そこら辺のブラック企業と変わんねぇよな」
「かもな。けど……アソシエイトはそもそも社畜だし」
「まあ、そうだけどさ」
EKコンサルティングの日本支社は丸の内の複合オフィスビルの中にある。四十三階建ての二十五階より上が本社で、下のフロアは外資系の証券会社が使用している。間にコンビニやレストランなどの商業施設が入っており、社割が利く店が多いため、陽向は時々、利用していた。
清潔でセンスのいい内装が施されたエレベーターは三十階を過ぎたあたりで空気が変わる。気圧の変化で耳がツンとするのだ。陽向はこの瞬間が好きだった。
――よし、今日も頑張るか。
ゴクリと唾を飲み込んで耳の違和感を取り払う。
自分の体がコンサルタントに切り替わったのを感じながら、三十五階で降りた。
「おはようございます」
「おはよう」
すれ違うコンサルタントと挨拶を交わす。今日はどこに座ろうかと考えた。
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