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【10】ズレた分だけキミが好き
今日も一日忙しかった。陽向は掃除スタッフとして夕方まで懸命に勤務した。
世の中に楽な仕事なんてない。
ビル一棟を人の手で綺麗にするのも大変な仕事だ。
ハイランドレディの業務を終えて女装したまま外へ出ると周防が通りに立っていた。これだけ人が行き交うビジネス街であっさり周防を見つけられることに驚く。
――あ……。
周防は陽向を見つけるとゆっくりと手を振った。思わず振り返しそうになって反対側の手でぐっと押さえ込む。何をしてるんだ自分、と心の中で突っ込んだ。
けれど、素直に嬉しかった。
周防がそこにいてくれて嬉しい。迎えに来てくれたことが嬉しい。自分を待っていて、それも楽しそうに待っていてくれたことが、本当に嬉しい。
――今日も立派なコンサルタントだ。
ただ立っているだけの周防に胸が高鳴った。スーツにコート姿で優雅に手を振る周防に目を奪われる。それも当然だろう。今も道を行き交う若い女性がチラチラと周防のことを見ている。
周防の背筋はピンと伸び、品のあるチェスターコートが体にピタリとフィットしていた。体幹はほどよく鍛え上げられ、腰の位置は高く、コートの下から折り目のついたスーツの裾が真っすぐ伸びていた。
――カッコいいな……。俺はあの体を知っているんだ。
胸のほどよい厚みと、凹凸のある腹筋。大きな手と優しい慰撫。
周防に抱き締められているところを想像して鼓動が跳ねる。その匂いや体温も思い出していた。
ん? おかしいだろ。
またこの情動かと、慌てて妄想を打ち消す。
久しぶりに会えて嬉しいのだと自分に強く言い聞かせる。無意識のうちにテンションが上がっていた。
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