【5】秘密と決意

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【5】秘密と決意

 陽向がハイランド本社の廊下を歩いていると周防から声を掛けられた。 「入中、ちょっと来い」 「あ、はい」  ハイランドの本社ビルは左右に別れている。それぞれノースタワー、サウスタワーと名前がつけられ、その間には連結されたフロア――小さな庭園のようなものがあった。そのサロンまで歩いて向かう。  中に入ると、周防はガラス張りの喫煙室の中に入った。  周防は煙草を吸わない。わざわざ周囲が見渡せるこの部屋に入ったということは、ハイランド側の人間に何か聞かれたくない話があるということだ。  陽向が耳を澄ますと周防がおもむろに話し始めた。 「社員のヒアリングはほぼ終わっただろう?」 「はい」 「これから営業先のインタビューを行ってくれ」 「え? 営業先のインタビューも全て終わりましたけど……」  その結果は資料として提出済みだ。 「そうじゃない。これまでハイランドが営業をして断った、あるいは向こうから問い合わせがあって契約が成立しなかった企業のインタビューを徹底して行ってくれ」 「分かりました」  どういうことだろう。意味は分からないが周防の指示だ。  陽向は早速、過去の営業履歴を調べて、契約に至らなかった十七社にインタビューを依頼した。結果、五社からアポイントが取れ、こちらから出向いて積極的な聞き取りを行った。どの企業も口が重く、なかなか本音を言わない。陽向が諦めかけた時、一社の担当だけが真実を話してくれた。  それは、とても不思議な話だった。
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