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と俺がツッコミを入れたのが聞こえたみたいに、目の前のファスナー付きビニール袋の筍と出汁が入った計量カップが退けられてほっとする。
取り敢えずもう一度グラス掴んで、泡が消えかかったビールを飲む。
『竹の子は…薄切りにします。…油揚げは…、そっか。油抜きしないんだ――短冊切りにします』
サトリ君は解説しながら料理を続けてる。
『薄切りってどれくらいなのかな…っていうかまあ。たけのこごはんに入ってるくらいの大きさに切ればいいんだよね?』
と画面から問われれば、俺だってようやく箸を持ち上げるタイミングができた。
頂きます。と手を合わせてから、箸でひと口分ご飯を持ち上げて、筍の大きさチェック。
「そうだねサトリ君。ちょうどいいんじゃないかな…」
ぱく。とそれを口の中に入れたら。
「ん…――んん!!美味い!」
独りで画面に向かって興奮して叫びながら、そのまま筍御飯を口に掻き込む。
油揚げの香りと油は、精進料理では淡泊な野菜の旨味を引きだすのに使うって聞いたことがあるから。油抜きしないで多分正解。
筍の旨味が鰹出汁を含んでさらに増してるし。筍の穂先の柔らかい所や、少し歯ごたえがある所の食感も楽しめる。
あっという間に1杯目の筍御飯が空になる頃、画面の中のサトリ君は鼻歌まじりで筍を小さく切ってるところだった。
「え?ヤバい――お代わりおかわり!」
サトリ君ちょっと待ってて。と画面をタッチして一時停止◫させると、キッチンに走って炊飯器から茶碗に山盛りにご飯を盛り付ける。走ってリビングに戻って再びの動画再生。
サトリ君は筍御飯の具材を切り終えて、炊飯器の釜に材料全部入れて蓋をすると、スイッチを押した。
『はい!では炊き上がりを待つ間に…次は餃子を作ります!』
材料です!って言ったところで、再び一旦画像停止。
竹の子御飯作るところ見てたから…竹の子御飯ばっかり食って、お皿の上に綺麗に並べられてた餃子は手つかずだった。
「…冷めてる」
熱々で食べたい。絶対コレも美味いに決まってるんだから。
と思って、皿を持って立ち上がるとキッチンに駆け戻る。
何時ものレンジお任せのボタン一つの温めじゃなくて。初めて総菜温め用のボタン使って慎重に時間設定もしてからボタンを押した。
「あー。こういう時にミトンが要るのか…」
さっき温めた時より皿が熱くて。素手で持てないから思わずシャツの長袖を指先まで伸ばして皿の両端を摘まんで熱さを我慢しながらリビングに戻る。
「サトリ君お待たせ…」
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