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『Over the Rainbow』(山)
ぽつ、ぽつ、って間は。粘って釣竿の先に集中してたサトリ君も。
ざ、ざぁ…
激しく地面を跳ね返りはじめた雨に追い立てられて。
いよいよ防波堤からむく、って立ち上がった。
「ダメだ颯君…一旦撤収!」
「了解」
釣り道具二人がかりで両手に抱えて走ったら。
サトリ君と二人で車中に駆け込んだ。
「――びしょびしょだ…」
風邪引かないように身体拭いてって。タオルを差し出す。
逃げ込んだ車の屋根にも、フロントガラスにも、ボンネットにも、大きな雨粒は音立てて苛むように、次々俺達めがけて落ちてくる。
髪から滴る雨をタオルに吸わせたサトリ君が。
「今日降るなんて言ってたっけ?」
助手席で口を尖らせて空に向かって文句を言ってる。
「うーん。俺も聞いてない」
「あんまり釣れてないし。もうこのまま帰ろっか?」
「――え?」
明らかに不満そうな顔を俺がしたからサトリ君は苦笑い。
「何だよ颯君その顔」
「久々に一緒の休みだから楽しみにしてたのに…」
もう、帰っちゃうの?
「俺は座ってるだけだからいいけど。颯君は長距離運転すんだぞ?」
やっぱり帰ろうよ、なんて言うから。
「――解った」
渋々承知した頃には。車を外から叩いてた沢山の大きな雨粒は、何時の間にか数を減らして。外が明るさを取り戻す。
真っ暗だった空に、急に晴れ間が見えてきた。
「あ…見てサトリくん」
ワイパーを一回かけて、水玉を弾き飛ばしたら。
窓の向こうに。
「俺…久し振りに見たなあ」
岬の先から海に向かって、くっきりと半円を描いてる虹が見えた。
写真写真、ってサトリ君はスマホ出して、車を降りて構え始めたから。
「ね…サトリ君。――寄り道して帰っても、いい?」
「え?何処行くんだよ」
「あの虹の、端っこまで」
小さい頃ね。昇れるんじゃないかって、走って虹の端を探して迷子になったって言ったら。
サトリ君は俺の話を真面目に聞いてくれて。
「俺もソレ、見たい」
でも虹に端っこなんて。あんのか?
「それを確かめに行くんだよ?」
「じゃあ、消える前に行くぞ!」
『虹を渡った向うには、どんな夢でも叶えられる国があるんだよ』
昔映画で見たOver the Rainbowの歌詞を思い出しながら。
サトリ君と虹の端っこを探しに行くために。
俺は車にエンジンをかけた。
(了)
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