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『万有引力の法則』(颯×サトリ)
「ね、颯君…」
好きな人の名前を呼ぶだけで。
どうしてこんなに切なくなるんだろう。
「サトリ君、もうひとつ?」
好きな人に名前を呼ばれるだけで。
どうしてこんなに泣きたくなるんだろう。
「うん」
あーん、って口を開いて待ってたら。
小さくて赤い、つやつやしてる姫リンゴのヘタの部分を指先で抓んで。
俺の唇の合間に押し込んでくれた。
シャリシャリと歯を立てて甘酸っぱい姫リンゴを食べる。
「おいしい?」
颯君が首を傾げて俺の顔覗き込んでくるから。
なんだかまた胸がきゅんと甘く痛んだ。
「颯君…あのさ」
「ん?」
見つめてくれる眼差しは優しくて。
「好きだよ?」
優しい瞳に吸い込まれるように見惚れて、また告白させられちゃう。
颯君は黙って微笑んだら、返事の代わりにキスをくれた。
唇に甘く歯を立てて、柔らかく吸い上げてくる。
「は…」
唇を薄く開いたら、する、って舌が滑り込んできた。
「ぅん…」
颯君の首に腕を回したら。段々深くなってくキスで、胸の鼓動が早まる。
微かに唇がほどけて。
「サトリ君」
触れ合うくらいの距離で囁く颯君の吐息は、あったかい。
颯君のほっぺたを両手で挟んで。今度は俺からキスを仕掛けた。
「――ん?」
そっと唇を離したら、颯君が不思議そうな顔をした。
「颯君にあげる」
「上げるってコレ…」
苦笑いした颯君が出した舌には、小さな種が三つ乗っかってた。
「リンゴの種じゃないですか」
颯君はよいしょ、って俺を抱き上げてくるから。落とされないように慌てて首に腕を回して抱きつく。
「リンゴと言えば。万有引力の法則…」
「重力を見つけたってやつ?」
暗い廊下で、颯君の声だけが聞こえる。
俺を抱いて手が塞がってる颯君の代わりに、寝室のドアを開いた。
「単に物が落ちる重力じゃなくてね?2つの物体の間には、お互いに引きあう力が作用する、って言う話」
ジョークにしては小難しい事言いながら、颯君は俺をベッドにゆっくり降ろしてくれた。
「じゃあこれも。万有引力の法則?」
俺は笑いながら、颯君の手首を掴んで、ぐいって引き寄せた。
(了)
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