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「エントツ」と「ソウジヤ」
つい先日まで、テレビもネットも新聞も、エントツについて取り上げることはほとんど無くなっていた。初めて街にエントツが出現した時は、みんなが悲鳴をあげながらあの怪物たちの詳しい情報を求めたものだ。
あれから数年経って、ほぼ日常的に出現するようになった彼らの事なんか、一般人もマスコミも全く気にしなくなってしまったのだろう。或いは、自分が当事者になるまではなるべく、そんな物騒なことは忘れさせて欲しいという人々の無意識の現れなのかもしれない。
だが実際のところ事態は深刻だ。既に世界の約三分の一が巨大な筒状の怪物に占拠されている。控えめに言って人類の危機だ。大げさに言ってもそうだ。
そんな未曾有の状況の中で、再びエントツについてマスコミが取り上げるようになった。希望が見えたのだ。しかもその希望はチャーミングな二人の少女で、世界を本当に救ってくれそうでもあったのだ。
飛行空母「ソウジキ」の艦内では、非常事態を知らせる吸引音が鳴り響いていた。殺伐とした空気のデッキ内。その真ん中で、持ち場へ急ぐ乗組員たちに混じって、明らかに場違いな二人の少女が突っ立っていた
一人は短髪で筋肉質なチムチム、もう一人はサラッとした長い髪が腰まで伸びているチェリー。二人共ずいぶんと不機嫌そうな表情だ。
「やっぱり、今日もあんたと出撃なわけ? やんなっちゃうし」と、少しハスキー声なチムチムが言った。
それを聞いたチェリーは、表情こそ動かさないが「私も別に望んでないじゃん?」と子供っぽい声でやや不機嫌そうに答えた。
「は? つーか、あんたみたいなお嬢様、一緒に出撃したら大変なのはアタシなんだからね?」
「ゆっくりしてれば? エントツはわたし一人で全部ソウジしといてあげる」
「あのね、アタシはソウジヤ試験トップ合格者だし」
「わたしだってそうじゃない?」
「実技はアタシがトップ。あんたは筆記が異様に出来てただけだし!」
「あら、戦略がねれなきゃ現場で実技は役立たないんじゃない?」
「ああ言えばこう言う!」
「あんたもね」
二人は立ち止まってうーっと睨み合ってしまう。
「おいおい、出撃前に揉めないでくれよ」と、二人を見かねたジュリー艦長が、慌てて艦長席から飛び出してくる。「ソウジキを沈める気か?」
「ご心配なく、力だけでなんとかしようとしてる人なんてハナから相手にしてませんから」
「あん!?」
チムチムとチェリーは再び睨み合う。
「いや、だからそれやめてって……」
ジュリー艦長は撫で付けられたロマンスグレーの髪をぽりぽり掻きながら苦笑いした。
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