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翌朝、園は足を引きずり、久方ぶりに小作人たちと並んで畑で鍬をふるった。
抜けるような青空から強い日差しが降り注ぐ畑は街道にほど近く、城下町と門前の宿場を荷車や参拝客がまばらに往来する風景はいつも通りだった。
昼には持参した握り飯を平らげて竹筒の水をあおり、あぜの草を腹立ち紛れに引っこ抜いていると、背後に馬が通る気配がした。
「あれを見よ、原田」
「あの娘ですか」
あの娘と大声で呼ばわれた園が腰を伸ばし、恐る恐る振り向くと、馬上の人物は紛れもなく若様であった。
どうやら寺からの帰路についているようだった。
「ああよい、続けよ」
若様は昨日園の顔を直視したはずだが、まるで記憶にないようだった。 園は会釈をすると再び身をかがめて草をむしり始めた。
「年若い娘もなりふり構わず米作りに励んでおる。俺は、このような光景をたとえようもなく美しいと感じる」
「まことに。今年の年貢も心配無用でしょう」
「うむ。しかし暑いな。疾く参ろう」
馬首を巡らせた若様に、後ろを行く原田が声をかけた。
「若様、お静殿に、今一度お目通りなさいましては……」
「無用だ。疫病神など」
土を蹴立てて去る二頭の馬を、園は少しの間見送った。
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